1-14: ギルド本部へ――世界が動き始める
その夜、ギルドの裏手にある作業室では、
受付嬢エマが一人、報告書に向かっていた。
「“コア不在”……
“魔力異常”……
“構造の不自然さ”……」
震える手で書き進める。
(こんなダンジョン……聞いたことがない……)
彼女は封書を丁寧に閉じると、
ギルドの使い魔に命令を送った。
エマ「ギルド本部へ……緊急便でお願いします」
小さな魔鳥が羽ばたき、
暗い夜空へ消えていった。
大都市アステッド。
ギルド本部の中心にある大講堂では、
重厚な机を囲み、幹部たちが緊急会議を開いていた。
老幹部「……これが例の報告書か」
若い幹部「正式調査隊の名があるなら信頼度は高いはずです」
老幹部「“コア不在”など……
前例があるのか?」
「いや、ない。少なくとも百年は記録にない」
「自然発生ダンジョンの理から外れている……」
ざわめきが広がる中、
分析班の主任が足早に入室した。
主任「失礼する。
この件について、私の見解を述べたい」
老幹部「来てくれたか。頼む」
主任「まず前提を説明しよう。
ダンジョンは自然生物に近い魔力の集合体だ。
その中心には必ず《コア》がある。
コアが魔力を循環させ、
モンスターや通路を“生み続ける”仕組みだ」
若い幹部「そこまでは常識だな」
主任「ああ。
だからこそ――今回の“コア不在”は異常なのだ」
会議室が静まる。
主任「これは、“暴走”の兆候と一致する」
老幹部「……暴走、だと?」
主任「コアの魔力が乱れる、もしくは消失しかけると、
ダンジョンは制御不能となり、
モンスターを外へ向けて無限に生成し始める。」
ざわめき。
若い幹部「……それは……」
主任「最悪の場合、
周囲の街や村が壊滅する。
数百年前、一度だけ記録に残っている」
老幹部「……王国史にあったな。
勇者と軍が鎮圧した“魔窟の氾濫”だ」
主任「今回の異常は、それと酷似している」
若い幹部「では……
勇者派遣は妥当ということか?」
主任「妥当どころか、
早期対処としては最も効果的だ。
暴走が始まれば、常識的な戦力では止められない」
幹部の一人が机を叩く。
「しかし、勇者は国の守護だぞ!
軽々しく動かせる存在ではない!」
主任「承知している。
だからこそ、
まず“追加調査隊”を送るのが現実的だ」
老幹部「……なるほど」
主任「だが繰り返すが――
これは“未知の危険”であり、
村ひとつの問題では済まない。
王国規模の災害に発展する可能性がある」
その一言で、会議室の温度が下がる。
老幹部「ではこうしよう。
すぐに“第一次追加調査隊”を編成し、村へ向かわせる」
若い幹部「解析班とベテラン冒険者を中心に?」
老幹部「ああ。そして――」
老幹部「王国にも“勇者派遣案”を事前通告しておく。
必要となれば即時動けるようにな」
主任「賢明な判断だ」
ギルド本部が動いた瞬間だった。
ユート「今日の朝ごはんどうしよっかな~。
ミリアの店、行ってみるか……金は……あるよな?たぶん」
ぷに(あるよ)
ころ(ないよ)
もち(ねむい……)
ユート「うわぁ分かんねぇ……ま、なんとかなるなる!」
――この数時間後。
ユートのダンジョンは
“王国規模の異常事態”として扱われることになる。
もちろん本人は、
その事実をこれっぽっちも知らないままだった。




