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ダンジョンチーター!〜転生社畜の勘違い最強ライフ〜  作者: 北風
第1部 ダンジョン実験編

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1-1: 異世界に落ちた男と、酒場を騒がす影




 洞窟の出口を抜けた瞬間、

俺は思わず目を見張った。


 空いっぱいに広がる無数の星。

 曇りも光害もない、濁りのない夜空。


 頬をなでる風は、都会では感じたことのないほど澄んでいた。


「……本当に、異世界なんだな」


 思わず声が漏れる。


 エレベーターの中でウトウトしていたのに、

目が覚めたら洞窟の中だった。


 手元のスマホには、

見覚えのないアプリ《Dungeon Creator》が勝手に追加されていて、

“特別な権限を付与しました” とだけ表示されていた。


(強くなった……のか?

 よく分からんけど……多分そうなんだろう)


 ただ、腹が減って冷え込むこの状況では、

余韻よりも現実が重い。


 その時、遠くにいくつもの灯りが揺れているのに気づいた。


「……人がいる」


 希望が胸に灯る。

俺は村へ向かって歩き出した。



 村の入口は木の柵だけ、

その向こうに、素朴な家々が並んでいた。


 鍋をかき混ぜる音。

 動物の匂い。

 ランプが揺れる光。


 どれも懐かしく、穏やかだった。


(何か食べ物があれば……助かるんだけど)


 村の中心に、ひときわ明るい建物があった。


 ジョッキの絵が描かれた看板。

 にぎやかな笑い声。

 木の扉から漏れる暖色の光。


(酒場だ……!)


 しかし、そこで重大な問題に気づく。


(……金が……ない)


 異世界通貨など持っているわけがない。

それでも、背に腹は代えられなかった。


「……行くしかない」


 覚悟を決め、扉を押した。



「いらっしゃいませ!」


 明るく透き通った声に、俺は思わず固まった。


 声の主は、

栗色の髪を肩で揺らす少女。

白いエプロンに、凛とした瞳。

動作も表情もきびきびとしていて、芯の強さが伝わる。


(……めちゃくちゃ可愛いんだが)


「どうかしましたか? 席、空いてますよ」


「あ、その……実は……」


(これ言うの勇気いるな……)


「金……ないです」


 酒場のざわめきが一瞬だけ止まった。


 しかし少女は驚いたあと、

ふわっと微笑んだ。


「事情があるなら仕方ありません。

 まかないでよければ、少しだけお出しできますよ」


(天使……!?)


 本当にそう思った。



 感謝しながらも、ひとつ気になって仕方がなかった。


(……なんでこの子、日本語通じてんの?)


「あの……ひとつ聞いていい?」


「はい?」


「俺の言ってる言葉……普通にわかる?」


「え……? 普通に聞こえてますけど?」


 少女は首を傾げる。


「えっと……“ありがとう” とか “ごめん” とか……意味わかる?」


「わかりますよ。普通の言葉ですよね?」


(いやそこ普通じゃないから!)


 念のためさらに聞く。


「俺のしゃべり、変じゃない?」


「うーん……ちょっと変わってますけど。

 旅の人にはよくありますし、“方言”みたいなものですかね?」


(異世界で日本語が方言扱い!?)


 世界観の大雑把さを感じつつも――


(……助かった……。言葉通じなかったら詰んでた)


 心の底からそう思った。



 少女が運んできたスープは、

湯気をゆらゆらと立ちのぼらせていた。


「豪華じゃないですけど……温まりますよ」


「ありがとう……!」


 一口飲んだ瞬間、

疲れと緊張が解けるような味が広がった。


(……うまっ……!)


 パンは少し固いが、噛むほど甘い。

スープは素朴だが、体の芯に染みる優しさがあった。


(ああ……久しぶりに、人間らしい食事だ……)


 ブラック企業の夜勤で食べる

コンビニの弁当とは全く違う温かさを感じた。



 スープを飲み終え、

胃袋がようやく満たされたときだった。


バンッ!!


 酒場の扉が乱暴に開く。


「よぉ、店の娘ぁ……

 今日もツケで飲ませてもらうぜ?」


 数人の荒っぽい男たちがズカズカ入ってきた。


(や、やばい……!)


 少女の顔が明らかに曇る。


(ここは……俺が守らないと……!

 強化されてるし……たぶんいける……はず……!)


 自信の根拠はゼロ。

だが完全に勘違いしていた俺は立ち上がった。


「お、お前ら……その子を困らせるな!」


 酒場中の視線が俺に集中する。


「あァ? なんだテメェ」


「細い腕してイキってんじゃねぇよ」


 男たちがニヤニヤしながら近づいてくる。


「や、やめてください!!」

 少女が焦った声をあげる。


(大丈夫……俺は強いやつ……のはず……)


 そう思い込んで拳を構えた――

その瞬間。


ドゴッ!!!


「っぶ……!!?」


 鳩尾に拳が突き刺さり、

床に転がる。


(……痛い……!

 普通に痛い……!!

 強化どこ行った……!?)


「弱っ!」


 店中が笑いに包まれ、

俺は恥と痛みで動けなかった。



「やめてください!!」


 少女が必死に叫ぶと、

男たちは舌打ちして去っていった。


 静寂が戻る。


「だ、大丈夫ですか……!?」


「……大丈夫じゃない……マジで……」


「でも……

 私を守ろうとしてくれましたよね。

 その気持ちだけで、十分です」


 その言葉が、胸に深く刺さった。



「その……あの……」


 少女が少し頬を赤らめ、言葉をつなぐ。


「助けてもらって……その……

 お礼だけじゃなくて……名前も知りたくて」


「あ……」


 そういえば名乗っていなかった。


 俺は少し考えて――

異世界でも呼びやすそうな名を選んだ。


「……俺は、ユート」


 少女は穏やかに微笑んだ。


「ユートさん……。

 私は ミリア・ローデ といいます。

 この《ローデ亭》で働いてます。

 改めて……ありがとうございます」


「こ、こちらこそ……よろしく……」


 こうして――

異世界で初めて、

俺は“名前で呼ばれる相手”を得た。




 一方その頃。

真っ白な空間では、不思議な二人の影が盤面を覗いていた。


「おおー、ようやく名前交換したねぇ」

黒パーカーの男が笑う。


「順調だ。

 彼はきっと“自分の場所”に戻るだろう」

白パンツの男が淡々と頷く。

ただユートを面白がるように見つめていた。





「今日は休んだほうが……」

ミリアが心配そうに言った。


「いや……俺、戻るよ。

 やることがあるから」


 ユートは立ち上がり、

酒場の扉へ向かう。


「また……来てください」


「もちろん。また来る」


 夜道を歩く。


(今のままじゃ……ダメだ。

 守るどころか、何もできなかった)


 悔しさと情けなさが胸に残る。


 でも――


(ダンジョンに戻れば……何か掴めるかもしれない)


 弱くても、逃げなかった自分だけは嫌いじゃなかった。


 ユートは、ただ前を見て進んだ。


 こうして彼の異世界生活は、

静かに、しかし確実に始まりを迎える。


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