緊張に包まれたギルド
夕刻の冒険者ギルドは、
いつも以上にざわついていた。
だがそのざわめきは浮つきではなく、
不安と緊張が混じり合った重い空気だ。
受付嬢エマは、資料の束を胸に抱え、
会議室へ急いでいた。
(……この静まり方、久しぶり)
彼女は息を整えて扉を開く。
円卓にはギルドの中心人物――
国家直属の中級冒険者で構成された正式調査隊が揃っていた。
隊長 ガイル、
魔術師 リナ、
前衛戦士 ドラン。
三人とも国家から任務を受ける実力者だ。
ガイル「エマ、最新の報告を」
エマ「はい。北の丘のダンジョン……
本日、再び“構造変化”が確認されました」
ざわっ。
ドラン「またかよ。昨日も変わったんじゃなかったか」
リナ「未成熟ダンジョンが短期間で形を変えるなんて、普通あり得ません。
魔力の偏りが強すぎます」
ガイルは腕を組んだまま、低く唸る。
ガイル「自然迷宮と分類されているが……
どう説明したものか」
リナ「まず、変化の速度がおかしいです。
本来、迷宮の通路が“形を変える”には年単位の魔力変動が必要です」
ドラン「だよな。深層のコアが暴走してるのか?」
エマが口を引き結ぶ。
「ですが……調査記録では“コア反応はない”と出ています」
ガイル「コアが存在しない迷宮など、本来ありえないのだがな」
リナ「ではなぜ階層構造だけ成長しているのか……」
ドラン「……気味が悪ぃな」
彼らはただ“理解できない異常”として捉えるしかなかった。
議論を聞きながら、
エマは胸の奥に別の不安を抱えていた。
(ユートさん……大丈夫かしら)
数日前、ぎこちない姿でカウンターに来た男。
『あ、あの……テイマーの登録って……どうすれば……?』
エマは丁寧に説明した。
しかし、そこで問題が起きた。
エマ『テイマー登録には身元保証人が必要です。
村にどなたか頼れる方は……?』
ユート『……い、いないです……すみません……』
エマは気まずさで顔を伏せる彼を見て、
そっとフォローした。
『無理に冒険者登録しなくても大丈夫ですよ。
お店にはまた来てくださいね』
(……あの時の沈んだ顔、忘れられない)
しかも最近は森に入ってばかり。
(どうか、危険に近づいていませんように)
リナが静かに言う。
リナ「昨日、入口付近で魔力の流れを観察したのですが……
脈打つような波がありました」
ドラン「脈打つ魔力……?
そんなの聞いたことねぇぞ」
リナ「通常の迷宮とは別種の“乱れ”です。
自然現象として説明しにくい」
ガイル「理由が分からんことほど厄介だ」
ドラン「そういや森でスライム連れた妙な男を見たぜ。
ユートとか言ったか?」
リナ「……あの方、あの装備で森に行くのは危険です」
別の冒険者「巻き込まれなきゃいいけどな……」
エマは無意識に拳を握る。
(……心配で仕方ないのよ)
ガイルが席を立つ。
ガイル「――作戦を開始する」
地図が広げられる。
「目的は“最深部の状況確認”。
異常が続く場合、危険排除も視野に入れる」
ドラン「戦闘は避けられねぇな」
リナ「魔力の流れ、構造変化……
全部の答えは奥にあると思います」
ガイル「明朝出発だ。
油断だけはするな。
必ず生きて帰るぞ」
三人は無言で頷き、ゆっくり部屋を出ていった。
静まり返った会議室で、
エマはそっと窓の外を見る。
(ユートさん……
本当に、無事でいて)
胸に手を当てる。
(あなたが危険に巻き込まれるなんて……
嫌だから)
夜の闇がゆっくりと村を包み始めていた。




