あの人
夕方のローデ亭は、今日も客足が途絶えた。
食器を洗い終え、カウンターの上を拭きながら、
ミリアはふと入り口の方を見た。
(……ユートさん、今日は来るかな)
自分で思ったより、その名前が自然に浮かんでくるのに気づき、
ミリアは小さく首を振った。
(別に……特別なわけじゃないし。ただ……)
あの薄い布の服。
ボロボロの外套。
装備も何も持っていない旅のテイマー。
スライムを三匹連れているのも珍しい。
(……あんな軽装で、ほんとに大丈夫なのかな)
村の噂話は耳に入っている。
「北の丘のダンジョン、最近は中が複雑になってるってさ」
「成長途中のやつは危険なんだよなぁ」
「初心者じゃ足踏みするのがオチだ」
ミリアはふと、手に持った布を握りしめた。
(ユートさん……あのダンジョンを見に行ったって言ってたけど)
彼がどこで寝ているのかも知らない。
森のどこかで野宿しているのだろう――その程度の理解しかない。
(……寒くないかな。ちゃんと食べてるのかな。
スライムさんたちは……あの子たちの方が強そうな気もするけど)
ミリアはクスッと微笑んで、自分でも驚いた。
(なんで……こんなに気にしてるんだろう)
答えはわからない。
でも――
彼が危なっかしいのは確かで、
放っておくとどこかで倒れてしまいそうで。
(……困ってる人を助けたいだけ。うん、それだけ)
そう自分に言い聞かせていると、
扉が“ぎぃ”と開いた。
「ミ、ミリアさーん……ご飯ください……
お腹すいて……倒れそう……」
そこに立っていたのはユートだった。
へろへろで、今にも倒れそうで。
「ちょ、ちょっと、ユートさん!? 本当に大丈夫ですか!?」
思わず駆け寄る自分に気づき、
ミリアは胸の奥が急に熱くなった。
(……ほんとに、危なっかしい人)
そして、その“危なっかしさ”が、
放っておけない理由なのだと、
ミリアは薄々気づき始めていた。




