1-8: 森を駆ける魔物と、歪む魔力流の兆し
翌朝のローデ亭は、開店前からざわざわしていた。
「北の丘のダンジョン、急に奥が複雑になってるってよ」
「ガイルさんらが調査したけど、まだ“成長途中”らしいな」
「未成熟ダンジョンってのは、ああいう風に変化が早いんだよ」
客同士の会話が次々に耳に飛び込んでくる。
カウンターを拭いていたミリアは、
その内容が耳から離れなかった。
(……ユートさん、あのダンジョンにも行くって言ってたよね。
大丈夫……かな)
彼の住んでいる場所も知らない。
森か野営か、それくらいしか思い浮かばない。
ただ、薄い服と頼りなさだけはよく覚えている。
(あの格好で……あんな危険な場所に……)
ミリアは胸の奥がざわつくのを感じていた。
「……昨日の冒険者、五階層まで行ったのか」
ユートは《Dungeon Creator》のログをじっと見ていた。
《侵入者3名:第五階層到達》
《侵入者状態:全員撤退》
《DP:少量獲得》
(よし……! 作戦通り“安全に追い返せた”……!
俺、やっぱ向いてるんじゃないか……!?)
三匹のスライムが誇らしげにぷるんと揺れる。
ぷに →(安全第一成功)
ころ →(ユートすごい!)
もち →(ぷに……眠……)
「今日も侵入者来るかもしれないな……
もっと強化しないと……
ミリアのためにも!!」
三匹のリアクション:ぷるっ(半分呆れている)
「その反応、なんだよ!!」
ユートはスライムたちをダンジョンに残し、ローデ亭へ向かった。
(昨日は色々あったし、ちゃんと顔見せとこ……
心配されてたら悪いし……
いや、されてないか……いや、どうだろ……)
店に入ると、ミリアがぱっと顔を上げる。
「あ……ユートさん!こんにちは。
昨日、大丈夫だったんですか?」
「え、俺? 全然大丈夫!!」
(大丈夫じゃなかったけど、言うわけにはいかない!!)
ミリアは胸を撫で下ろした。
「良かった……。
最近、あのダンジョンの噂ばかりで……
ユートさんも行ってるって聞いたから、少し……気になって」
(で、でたーーー! “気になって”って言葉!!!
今日から俺は“村の人気者”なんじゃないのか!?
いやそれは違うか!?)
「え、えっと、ありがとう……!」
ユートは緊張で声が裏返った。
ミリアは気づかないまま、柔らかく微笑む。
「スライムさんたちも元気ですか?」
「もちろん! 俺より頼りになるからな!」
(……それは本音かもしれない)
冒険者ギルドでは、昨日の報告が騒ぎになっていた。
受付嬢「ガイルさんの報告によると……
あのダンジョン、成長速度が異常ですね」
ガイル「ああ。
自然発生にしては、構造が複雑すぎる」
受付嬢「次は“二段階上の”パーティーを送ります。
準備、してもらえますか?」
ガイル「了解した」
こうして、より熟練の冒険者たちが動き始めた。
「よし、お前ら! 今日の強化方針だ!」
三匹のスライムが振り向く。
ぷに →(計画?)
ころ →(迷わせるの?)
もち →(寝床追加?)
「六階層の罠をもっと強化する!
“怪我ゼロで、絶対に突破されない”階層にする!」
三匹は嬉しそうに震えた。
▼ユートの強化案
揺れる床(速度調整版)
滑る通路(怪我しない素材)
行き止まりに見える“偽の扉”
スライムの移動音を利用した“微振動罠”
(全部ぜんぶ、“安全”にこだわって作る。
俺のポリシーだからな……!)
スライムたちは罠のチェックに駆け回り、
もちだけは隅で寝ていた。
黒パーカー「おー、いいじゃん。順調順調」
白パンツ「ギルドも動き始めたな。
次の侵入者は、彼にとって試練になる」
黒パーカー「それにしても……ユート、ほんと面白いよなぁ」
白パンツ「うむ。彼の“優しさ”が、ダンジョンに滲んでいる」
ローデ亭の片付けが終わり、ミリアは外へ出た。
夜風は冷たく、森には薄い霧がかかっている。
(ユートさん……今日も森のどこかにいるのかな)
ふと胸が締めつけられるような感覚になった。
(……ちゃんと食べてるのかな。
あのダンジョンに近づいて怪我してないかな)
ほんの少しだけ、胸が熱くなる。
(ただ、心配してるだけだよ……うん)
彼女はそう自分に言い聞かせて、店の扉を閉じた。
「よし……明日も強化するか!」
三匹のスライムが、
「がんばれ」と言うかのようにぷるんと揺れた。
「……よし!
ミリアの……い、いや、その……知り合いのためにも!!」
三匹の反応:ぷる、ぷる、ぷる(なんか呆れている)
「その反応やめろってーーー!!!」
ダンジョンには、今日もユートの声が響いていた。




