第8話 独房からのプレゼント
サイレンの音はまだ鳴り響いている。
俺は決して振り返らず、まっすぐに道を行く。
あのウォーキングのお陰で、
筋力はないが体力はある。
鼻いっぱいに土埃の匂いを吸い込みながら、
ひたすら真っ直ぐ走る。
「何が来る?
次は何が来る?」
そう、ここからが出たとこ勝負。
プランはもう終わり。
だか、予測はつけてある。
管制塔は低く、滑走路はない。
なら、何を飛ばす?
ヘリが基本だ。
だが、あのグラウンドから、
そんな大きな機体は見えなかった。
隠してあったとしても、出すのに時間が必要だ。
なら、先に何かを出すはずだ。
斥候として、追跡として何かは出すはずだ。
ただ、銃がレーザー光線だったこともある。
俺の予想を遥かに越えたSF的な何かが来たら、
完全にお手上げだ。
だが、俺の予想通りなら、アレが来る。
俺の耳に福音が届いた。
プロペラの音だ。
「よっしゃ!
来たぞ、ドローン!」
ミサイルのようなフォルムのドローンが一機、
俺を追いかけて来た。
予想が当たって、俺のテンションは最高潮。
こちとら、
ロボット工学をメインにやってたロボットオタクだ!
ドローン?
あんなの、俺にとっちゃおもちゃだ!
とんでもSFな仕組みでなければ、アレを奪える!
俺は血のにじむ足を止めた。
俺を通りすぎるドローンへ向かって発砲する。
闘牛士と闘牛のように、
ドローンとすれ違いざまに撃った。
できれば当たるな。
俺はそう願いつつ結果を見つめる。
レーザー光線は、ドローンを掠めた。
ドローンはバランスを崩して、近くに墜落した。
俺はそれを追って駆け出す。
九割、いや、七割無事ならいい!
飛べりゃなんでもいい!
落ちたドローンのプロペラはまだ動いている。
俺は機体に駆け寄って、破損箇所を調べる。
大きな破損は見当たらない。
長さ二メートル、太さ三十センチくらい。
俺は、銃のグリップでメンテナンスハッチだと思う箇所を殴って開く。
「来た! 来た! 来た!
分かる!」
外装は樹脂だ。
プロペラは四枚。
後ろに二枚と左右一枚ずつ。
モーターと電源とおぼしきケーブルを無理矢理繋ぐ。
「いってぇ!
こなくそっ!
感電ついでに溶接してやる!
……繋がった!」
制御系は、
フライトコントロール部分と思われるものを外す。
看守に操作させないためだ。
速度制御装置は、あってもなくてもいい。
GPS っぽいのは、外して遠くへ投げ捨てる。
これで、
このドローンは真っ直ぐ飛ぶだけの機械になった。
プロペラが動き出して、ドローンが浮き上がる。
俺はそれに飛び乗ってしがみつく。
さっき空けた穴に足をかけて固定し、
コアラか何かのような姿で俺は飛び上がった。
俺は身体を揺らし、
ドローンを誘導して道にあわせて進ませる。
これで距離を稼ぐ。
「よし! よし! よし!」
人里に出るのが第一だ。
木を隠すなら森の中。
人なら人里に紛れ込む。
完璧とは言えないが、
いいプランだと自負してる!
俺が重いせいで、飛行高度が上がらない。
二メートルから三メートルくらいをフラフラしている。
この辺は仕方がない。
だが、速度は申し分ない。
体感だが、
原付なら間違いなくパトカーに追っかけられる速度だ。
「ヒー! ハー!」
俺はドローンに抱きついたまま、
カウボーイよろしく叫ぶ。