第65話 嵐、アラシ、あらし
クジラだ。
海にいるはずのクジラが、宙を浮いている。
まるで大海原を泳ぐように、
大きな一対のヒレと尾びれをはためかせ。
クジラは空に浮いている。
「いや、もうありゃ。
龍だわ。」
目測で全長十キロくらい。
厚みもかなりある。
色合いもあいまって、
エアーズロックが浮いてる、と言う感じに見える。
所々装甲が剥げているようで、
錆色のそげが鱗の様に見える。
それでもなお、
優雅に力強く空を飛ぶその姿は雄大。
老龍のような風格がある。
「カッコ良すぎだろ、あれ。
どうなってんだ?
エンジンも何も見えない。
SFらしく、反重力装置?
いや、これ、あれか。
回転磁場で上に電磁誘導が起きてて、
クジラ自体にも浮かす何か仕組みがあって。
推進力はなんだ?
空気か? エアスラスターか?」
『オメガ』は台風。
強力な磁気を帯びて回転している。
だから、回転磁場が起きて、
回転の中心で上向きに電磁誘導が起きる。
レールガンの砲身を真上に向けてるのに近い。
誘導パッドをクジラの腹に敷き詰めて、
それを受け止めて浮き上がってる。
それ単体であの大きさを浮かせるのは無理だが、
クジラ自体にも浮力を作る何かがあれば飛行可能だ。
飛行機のような翼もエンジンもない。
ヘリのようなローターやプロペラもない。
生き物のクジラの姿形のまま浮かび上がるそれは、
まさに俺の理想のSFだ。
俺はじんわり感動しながらも、
頭の中はクジラの飛行理論を組み立て続けている。
「いや、こんなでかいのが浮くぐらいの強さの地場なら、
俺がこの車のドア開けた瞬間、干物になって発火するわ!
どうやってアレに入るの?」
正気に戻った俺は頭を抱える。
雷と言うか、プラズマが起きるほどの電磁気だ。
計器をよく見れば、
何もしてないのに車のバッテリーは満タンになってる。
電子レンジなんて生易しくない。
電気炉の真ん中に俺はいる。
「くそっ!
バニラ、通信を全域に解放してくれ。
ごらぁ! 女神!
来てやったぞ!
速く引き上げて!
車体が燃える! 発火する!」
俺は通信に暴言を吐きつつ車をクジラの下に近づける。
すると、
クジラの方から何か飛んできて車体に引っ付いた。
俺からは見えないが、
クレーンゲームの景品みたいな状態だろう。
「バニラ、スラスター全開!
姿勢制御しつつ、引き上げてもらうのを補助!」
俺がバニラにそう指示すると同時に、
車体が大きく揺れた。
どうやらキャタピラが地面から離れたらしい。
俺はシートベルトをきつく絞め直す
「ほんっとに、嫌だ!
もう嫌だ!
バニラ、お前もシートベルト絞め直せ!
クジラまで高度はそんなに高くないみたいだが。
多分、回る!
オーバードーズ? 知るか!
今からこの車、
ヘリのローターみてぇに回るんだぞ!」
俺はそう叫びつつ薬を六錠追加で飲む。
次の瞬間、俺の予想通り車体が高速で回転し始めた。
「ぎぃやぁぁぁぁ!
早く! 早く引き上げて!」
俺はもう絶対、絶叫マシンには乗らない。
心底そう思った。




