第60話 人と獣の境界線
「さて、一番給料の高い私から話を始めよう。」
廊下のスピーカーから、そんな声が聞こえる。
「バネロめ。
もう勘づいたのか。」
俺は舌打ちしつつ、
なぜか追いかけてくる3544569のヤツから走って逃げる。
なお、
いざとなったら他の男に紛れ込めるように俺は全裸になっている。
そんな俺の背に向かって、
3544569はずっと話しかけてくる。
「ねぇ!
なんで逃げるの?
追いかけっこ?」
コイツは幼い話し方だが、しっかり会話はできる。
教育を制限されているとしても、
この感じなら追加で教育をすれば十分社会生活できそうだ。
にしても、
さっきからコイツ何でずっと俺に話しかけてくるんだ?
巻き込んだのは申し訳ないが、
まさか俺を追ってくるとは。
「キミ、看守じゃないよね。
ねぇ? 聞いてる?
キミもドアが開いて出てきたの?」
でも、バネロにバレた限りコイツに構ってられん。
俺は脱いだ服をもう一度着て、黒い箱を取り出した。
バネロがスピーカー越しに話し出した。
「君が追い出されたのは聞いたよ。
こちらの手違いだ。
謝罪しよう。
ただ、どうして君はここに侵入しているのかな?」
ここを乗っ取るためだよ。
俺は黒い箱で監視カメラの映像を盗み見ると、
バネロたちは管制塔のエレベーターの方へ向かって歩いている。
「不味い!
こりゃ、本格的に不味い!」
「何か食べてるの?
ねぇ!」
くそぅ、とっ散らかって来やがった。
パニックにはなったようだが、
俺の想定してたパニックじゃない。
バネロが恐ろしく有能だ。
これは分かっていたことだが、
俺の想定より倍は頭が良い。
「警報は鳴らない。
多分バネロが止めやがった。
もうカメラに映るとかの話じゃない。
チップくらいならなんとでもなったんだがな。
そんなこと言ってる場合じゃねぇ!」
考えろ!
考えろ俺!
「ねぇ、本当にどうしたの?」
俺は立ち止まって、追ってきている3544569を見た。
ソイツも立ち止まって俺を見る。
「どうしたの?」
背格好はほぼ同じ。
この廊下の中なら、誤魔化せるか?
相手がバネロなら、無理だ。
だが、これはこれで。
俺は話しかけてみた。
「お前、名前は?」
「名前?
3544569です!」
「長ぇわ。
……ロックだ。
俺はお前をロックって呼ぶ。
いいか、ロック。
ちょっと聞いてくれ。」
俺は呼称ロックに近寄り、
話を続ける。
「分かった。」
「よし、良い子だ。
この通路の先に看守さんがいる。
まっすぐ行って、
ドアが開いたよ、って教えて上げて欲しい。」
「うん!
キミはどうするの?」
よく顔を見ると、ロックはかなりの美少年だ。
中性的な顔立ちで俺と比べるまでもなくイケメンだ。
「俺は落とし物を拾ったから、
持ち主を探してるんだ。」
そう言って俺は懐から取り出したものをロックに見せる。
「じゃぁ、僕が看守さんに持っていくよ。」
「お?
頼んで良いか?」
「うん!」
俺はそれをロックに渡した。
「ロック、今渡したそれは何の道具か分からないから、
看守さんに渡したら目をつぶって見ないようにしてくれ。」
「そうなの?
分かった!」
満面の笑みでロックは応える。
罪悪感が半端ないな。
まぁ、看守は撃たないだろうが、
何かあったらごめん。
「俺は自分の部屋に戻るよ。
後は頼んだ。」
走り去るロックを見送って俺は次の行動に移る。




