第59話 猛獣注意
昼の十二時になった。
盗み見ている監視カメラの映像では、
看守が交代の引き継ぎを始める。
「今だ。開けろ。」
俺がそう言うと、フェンスの門が開く。
看守はまだ引き継ぎをしていて、
全員モニタから目を離している。
俺は全力疾走で門を潜って、
グランドを駆け抜ける。
「エレベーター!」
手のひらをエレベーターの認証装置に押し付け、
エレベーターを待つ。
「長いんだよ……。
早く、早く、早くぅ。」
小便を我慢する子どものように、
その場で足踏みをしてエレベーターを待つ。
監視カメラの映像では、
もうすぐ看守の引き継ぎが終わりそうだ。
「不味い、不味い、不味い。
ここでバレなくても、
エレベーターの箱の中のカメラでバレる。」
時間がない。
ここでバレれば箱を止められる。
本当の袋のネズミだ。
「私だ! チップだ!」
突然、盗み見ていた監視カメラから大きな声がした。
引き継ぎが終わりかけていた看守たちが整列する。
俺はカメラを凝視すると、
扉を開いてチップとバネロが守衛室に入ってきた。
「マジかっ。
コイツら、何しに……。
いや、バニラについてだ。
もう勘づいたのか。」
思ったより円卓は有能らしい。
おそらくマリーの部下の誰かが、
バニラの情報をリークした。
そこからバニラの複製か模造品が出たのだろう。
そうなら街にバニラが、
セックスができるアンドロイドが蔓延するのは時間の問題だ。
これは本格的に居場所がバレるわけにいかない。
「でも、今のうちだ。」
俺は到着したエレベーターに乗り込み、
可能な限りカメラに映る面積が小さくなるよう箱の角にしゃがみこむ。
「頼む。
早く、早く、早くっ。」
エレベーターが降りる。
かなり深く降りるので時間がかかる。
「お前たちは何をやっているんだ!?」
カメラの映像を見ると、
チップが看守を怒鳴り散らしている。
許可なく俺を追い出した件だろう。
ナイスだ。
今なら抜け出せる。
看守たちが縮こまるのを見ながら、
エレベーターは地下へ降りる。
到着したと同時にエレベーターから飛び出した。
周囲に看守の気配はない。
黒い箱で監視カメラを確認し、
映らない場所を見つけて移動する。
「守衛室は……。
不味い。
チップとバネロの二人がこっちに向かってるのか。」
とりあえず、俺の部屋には近寄らない。
でも、守衛室へは向かわなきゃならない。
早々にロボットに頼っちまった。
次、書き込んでも手伝ってくれないかもしれない。
下手すると対価に修理をねだってきそう。
「守衛室までの廊下を見せてくれ。
……ほうほう。
チップたちを案内してる看守の二人は、
さっき引き継ぎしてた朝番のやつだな。
守衛室を見せてくれ。
こっちには二人いる。
こいつらが昼番だな。」
映像にはモニタを監視してる看守がいる。
まだフェンスの門解錠履歴とカメラの過去画像は確認されてないようだ。
ただし、ここから先はカメラに映れない。
守衛室から俺の部屋までそこそこ遠い。
でも、このエレベーターは更に遠い。
「カメラのない廊下や部屋は管制塔までない。
男の管理用にあちこちカメラがある。
どうしたもんか。」
考えながら辺りを見回す。
ふと、目についた部屋。
「……3544569の部屋のカメラの画像を見せてくれ。」
黒い箱にそう指示すると、
部屋の中の画像が見えた。
中には男がいる。
俺より年下か同じくらい。
「3544569の部屋のドアが映る画像はあるか?」
黒い箱は3544569の部屋のドアを映す。
ドアを開く認証装置はエレベーターと同じ物だ。
手のひらを押し付けて、
指紋と静脈で認証するものだった。
ただ、カメラはその手のひらを押し付ける部分を映してない。
ここから壁づたいに行って手のひらを押し付ければ、
ドアが開く。
「ドアがひとりでに開いたらどうなる?
中にいたやつは外に出るか?
看守は開いたドアを見て管制塔から出てこっちに来る?」
出たとこ勝負だ。
俺は壁に背をつけて張り付き、
ドアの認証装置まで近づく。
「トライ&エラー。」
認証装置に俺の手のひらを押し付けた。




