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男女比1:5の世界でサバイバル  作者: 桃野産毛


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第48話 後悔するといい

 嘘。そうだ。

全部嘘だ。

俺がしたここまでの長い話全部嘘。

 何が嘘って?

効果はあるよ、この策に効果はあるんだ。


 ただ、時間が足りない。


 一万を越える人間を動かそうとするんだ。

例えこの場でこの策を採用したとしても。

この目の前の十二人が強権を振るっても。

動き出すのに十年はかかる。

準備に更に十年は必要と見ている。

 でも、効果は百年以上先だ。

効果が出るまえに、この国は破綻する。

ワンチャン、ギリギリで間に合うかもしれない。

でも、百年もの長期間で問題が起きないはずがない。


 だが、彼女たちはこの策にのるしかないはずだ。


 これ以外策があるとすれば、

民も収容所の男もこの十二人も全て奴隷にして、

人工知能で完全管理する、とかだ。

過激さは俺の案の倍以上。


「本来、『円卓』は一人が議題を提起し、

残りの十一人で多数決をとる。

 今回は、

私が提起者として彼が提唱した議題について、

決を採ろうじゃないか?」


 バネロはそう言って席に背を預ける。

そして、俺に確認する。


「このまま、

君にプレゼンを任せていいかい?」

「飛び入りだから、

明確なエビデンスの提出は無理だぞ?」


 俺は肩をすくめて言う。

バネロが手を振ると、

三人の軍服たちは銃を下ろした。


「十分だよ。

今の話でほぼ完結している。

細かいところは決議後でいい。

 皆、質問があれば、彼にしてくれたまえ。」


 俺は頭をかきつつ、

周囲を見渡す。

十一人はお互いの顔を見合わせたり、

ヒソヒソと話し出した。

 ぽいな、これ。

すげぇ議会っぽい。

俺のテンションがちょっと上がる。

 トリスが手を挙げる。


「君の言う『君の記憶』についてだが、

我々が植え付けた記憶と違うようだが。」

「いや、それこそ俺が知りたいわ。

お前らが知らねぇなら、

俺に分かる道理がねぇっての。」


 俺がかぶりを振って笑う。

心当たりはあるけれど、

ここで話せるレベルじゃない。

 もう一人、

始めに怒鳴り付けたのが手を挙げる。

俺はクイズ番組の司会のようにソイツを指差した。


「はい、そこのワンコ。」

「誰がワンコだ!

私はチップと言う!

 もう、私にはお前が褒めてるのか、

けなしてるのかもわからん!」


 おちょくってるつもりだったのに、

混乱させてしまったか。

残念だ。

コイツ、面白かったのに。


「……男の身体についての医学資料がない。

お前のいた施設で色々情報を集めてるが、

まだ不完全だ。」


 なるほど。

怪我したときの対応法が分からないから、

過保護なほど激しい運動をさせなかったり。

部屋がクッションだらけだったりするのか。

俺はてっきり自殺防止かと思っていた。

 つーか、それならあんな過激な搾精すんなよ。

俺は怒鳴りかけたが、飲み込んだ。


「基本的には男女で変わらん。

確かに男だけ女だけ、ってのはいくらかあるけど。

そこは俺の頭の記憶抜いて調べられるか?

 医学は専門外だが、

諸事情により普通の人よりは詳しいぞ?」


 俺の夢のためにロボット工学だけでなく、

医学もかじった。

大学の医学部には知り合いもいて、

アドバイスも貰ったことがある。

 医者程じゃないが、

そこそこ詳しいと自負している。

バネロが頭を抱えて言う。


「記憶を抜いてしまうと戻せないぞ?」

「マジで?

ダビングとか、コピーとかできないの?」


 チップが手を挙げて言う。


「それはまだ無理だ。

研究されてはいるが、まだ実用的じゃない。

 追加でいえば、

お前の言う『二十世紀から二十一世紀の日本の学校』、

と言うのも資料もなにも残っていない。」


 ある程度想定していたが、

俺の頭の中、ヤバイな。

あの駄目神、本当に何者だ?


「分かった。

じゃぁ、俺の要求に追加だ。

 俺の要求を先に叶えてくれ。

んで、そっちの準備ができるまで、

ロボット作らせてくれ。

ロボットができたら収容所で暮らさせろ。

 クローンとか町の準備ができたら、

俺の記憶も全部お前らにやる。」

「それはもったいなさ過ぎる!」


 バネロが声を荒らげた。

今まで冷静だったのが嘘のようだ。

立ち上がって目を見開いて俺を見ている。

 俺を買ってくれているのだろうが、

仕方ない。

どうせ、嘘だし。


「じゃぁ、どーするのよ?

時間がないし、

欲しいものはここにあるんだぞ?」


 俺は俺の頭をつついて言う。


「記憶のダビング機能の研究は?!

資料ないか?!

クソッ!」


 バネロが懐からジッポライターのような端末を取り出して、

操作をし始めた。

バネロの周囲に無数の映像が浮かび上がる。

 SFだねぇ。

テンションが非常に上がる。

あの『境界』で亡くなった軍服からパクったあれ、

タブレット端末とか情報端末なのか。

 バネロは空中の映像を叩きまくっている。

記憶操作について調べてるのだろう。

ホテルに帰ったらパクったやつ触ってみよう。


「バネロがさっき言ったんだろ?

細かい話は後回しだ。

とりあえず、決議後に調べりゃいい。」

「……分かった。」


 バネロは渋々席に座る。

その後の採決はあっという間だった。

もちろん、採用だ。

俺は笑顔でバネロと握手する。


「最後まで付き合うから、よろしく。」


 俺がそう言う。

そうとも。

この国の最後まで、じっくり付き合うよ。

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