第2話 独房に行くまで
こういうシチュエーションの作品は好きだ。
だが、いざ自分の身に降りかかるとなると、
話は別だ。
「大変申し訳ないのですが、
ただの大学生の俺に何ができますか?」
俺は推定女神様の美女に恐る恐る尋ねる。
「存じております。
なので、
何か行動を起こしてくれるだけでいいのです。
誰かが一石を投じるだけで、
あの世界は変わるはずです。」
良くも悪くも。
そう付け足す推定女神様。
想像しただけでやばい世界なのは確定だ。
末期の世界で個人が何をする?
しかも、
己の日々の生活を守るだけで精一杯な俺がだ。
「貴方には、
その世界で読み書きをする力を与えます。
転生しても、
以前までの記憶や自我もそのままです。」
あーあ。転生が決まった言い方だな。
俺に拒否権はもうないようだ。
「特に貴方の機械に対する知識は、
あちらでも使えるはずです。
ここより少し水準が上ですが、
貴方なら学習できるだけの下積みがあります。」
おっと、
剣と魔法のファンタジーな世界かと思っていたが。
なんか、もっとやばそうだ。
「ある事情で人類の男女比が偏ってしまい、
危機的な状況なのです。」
何となく見えてきた。
魔王だの隕石だのと言った脅威とは違うらしい。
だが、それでも俺に何ができるのか。
正直、不安しかない。
「どうか、世界を救ってください。」
そう言って、推定女神様は俺頭に手をかざす。
まばゆい光が俺の視界を包み、
視覚どころか全ての感覚が緩やかになくなっていく。
そして、目覚めたらここで、これだ。
男女比が偏っている、なんて聞いたときには、
エロマンガみたいな世界を想像したが。
これはデストピアSFだ。
食事を終えて、一息付く。
飲み物は出されない。
あのゼリーだけだ。
栄養価はちゃんと計算されているらしい。
強い乾きや空腹を感じることはない。
だからとて、だからとてだ。
日本人としての記憶がある俺にとっては、
これは辛い。
米が食えないとかの次元じゃない。
味はいいよ、うん。
でも、その味だけだ。一辺倒に同じ味。
味変も箸休めもない。
毎日毎日、色違いの座布団だ。
次のブザーが鳴る。
俺はため息をついて扉の前に立った。
扉がひとりでに開く。
軋んで酷い音がする。
扉の向こうは薄暗い通路に、点滅する矢印。
この通路も色褪せたクッションで包まれている。
矢印のサインはいくつか点かなくなっており、
年季を感じさせる。
俺は急かすように点滅する矢印に従い、歩き出した。