第15話 穴ぐらの白昼夢
俺は高校の選択科目は世界史を取っていた。
そして、その時の担任は生物の先生だった。
当時の俺は夢に向かって猛勉強していた。
その時に担任は俺にこう言った。
「お前の夢を否定するつもりはない。
でもな、お前がもし、
それを本気で成し遂げるなら、
今の内に世界史で中世ヨーロッパの貴族の家系について調べろ。」
俺の夢は単純明快。
金持ちになりたかった。
永続的に金になるのは何か?
俺の結論は、軍事とエロスだ。
俺の夢は、
セックスができるアンドロイドの発明だった。
それが実現されれば、巨万の富が約束される。
そんな発明を、開発をして金持ちになる。
金持ちになったら、
仕事はせずに遊んで暮らす。
そのためにロボットについて必死に学んでいた。
俺は言われた限り気になる性分なので、
すぐに調べた。
担任の言いたかったことは、
すぐに分かった。
遺伝子的多様性の喪失と、遺伝子疾患。
「たぶん、お前がそんなアンドロイドを作って売れば、
皆がこぞって買う。
大金持ちは間違いない。
毛生え薬と同じか、それ以上だ。
でも、それが原因で出生率が下がれば、
ゆくゆくは中世ヨーロッパの貴族と同じか、
もっと酷いものになるかも知れない。」
担任は特に遺伝子的な分野が好きだ、と
よく授業で言っていた。
「そう言う道具は男女比で言えば、
男の方が需要があるだろ。
そうなれば、潜在的な男女比が狂う。
男女比が1:1。
これが生物学的に理想の形だ。
戦争とか飢饉で一時的に比率が狂っても、
せいぜい1:2とかだ。
それなら、
人口が多いと時間で解決するし。
他のところから男を呼べば、すぐに元通りだ。」
担任は頭をかきつつ、続ける。
「だが、お前がもし、アンドロイドをつくったら、
どこから男を呼べば良い?
たぶん、売価を高額に設定しても皆買うぞ。
世界中の男が買う。
先生もローンして買うよ。
地域も国境もなく、
全世界で男女比が狂うんだ。
そうなれば、
人類の滅亡がフィクションじゃなくなる。
下手な話、
核戦争よりリアルな滅亡シナリオだ。」
担任はそう言って俺の肩を叩いた。
「お前は頭が良い。
もしかすると、その夢を叶えるかもしれない。
でも、倫理観がちょっと欠ける。
サイコパスとは言わないが、な。
世界滅亡の元凶なんて、嫌だろ?
そんなんなったら、
お前はノーベルより酷い扱い方されるぞ。
恋人をアンドロイドに取られた、
なんて個人の恨みも山ほど買うだろうしな。」
フラッシュバックした記憶が、
残響を残して消えていく。
目の前に広がる光景は、
その担任が危惧したものにそっくりだ。
俺は目を凝らす。
目についた女性は皆背が低く、
幼い顔つきで手足は少し長い。
さすがに遠くて顎の形までは見えなかった。
「異世界的な、
人種的なことだったら良いんだ。
ドワーフとかホビットとか。
昔の日本人みたいに、床で生活してるとか。
これがそうじゃない場合は、不味い。」
どこにも階段がないのと、
肉体労働をロボットがやってたのは、
彼女たちの心肺機能が弱いためか?
頭のなかでグルグルと思考が回転する。
しかも、嫌な方へピースがはまっていく。
「逃げた俺を追いかける人間がいなかったのは、
心臓疾患せいか?
ヘリとかバイクとか車じゃなくて、
ドローンとかロボットが来たのはこのせい?
もしかして、
あの看守が体当たりで簡単に倒れたのも?
いや、看守は背が高かったし、
乳もケツもデカかった。」
まだまだ気になることがある。
俺は女医に食って掛かる。
「さっき言ってた、
『マスキュラ』ってなんだ?」
「あぁ、私も詳しくは知らないんだけど、
効果はさっき話した通りだ。
なんでも、
古代文字が書かれた瓶に入ってる薬らしい。
その文字の読み方が、
『マスキュラ』っていうんだ。」
「どっ、どんな文字か見たい。」
「こんなんだよ。」
女医はカルテを俺に掲げる。
そこには見知ったマークが記載されていた。
“♂”
俺は吸えるだけ息を吸い込み、
叫んだ。
「完全に詰んでるじゃねぇかぁ!」