第13話 穴ぐらの目覚め
目が覚めた俺は、
岩がむき出しの天井に困惑した。
「……ここ、どこだ?」
喉がかすれる。
声はやっと出せたという感じだ。
「おや、目が覚めたか?」
知らない声だ。
俺は警戒して起き上がろうとしたが、
激しい痛みで呻き声を上げてしまう。
「あ! 動いちゃ駄目だよ!
大丈夫。ここは、大丈夫だから。
落ち着いて。」
声の主は俺に駆け寄り、
俺をベッドへ寝かそうとする。
白衣を着た女性だ。
少女と呼べそうなほど、
小柄で幼い顔をしている。
白衣を着て俺を診てたなら成人してるはずだが、
どうにも見た目が幼い。
「ここは私たち『解放軍』の病院だ。
ここなら、中央政府に見つからない。
安心してくれ。」
安心できない単語しか聞こえなかった。
ぼやけた頭が急激に目覚める。
「君は運が良い。
『境界』の端で君が倒れていたのを、
うちのボスが見つけたんだ。」
少女が話を続ける。
俺はぼやきたい気持ちを飲み込んで、
黙って聞いておく。
「君の身体はボロボロだった。
ほんの少し発見が遅れていたら、
君は死んでいた。
本当に運が良い。」
俺の警戒心を悟ったのか、
少女は、頭をかきながら申し訳なさそうに続ける。
「私は医者だ。
守秘義務は護るよ。
……君の身体を診たのは私だ。
その、政府が極秘裏に人体実験を行っている、
と言う情報はあったんだが、
君はそこから逃げてきたんだね?」
おっと、なんだか雲行きが思っていたのと違う。
俺は口から言葉が漏れそうになるのをこらえた。
「『マスキュラ』を定期的に接種させて、
人体を改造する。
君が受けたのは、
恐らくそう言うものだ。
効果は筋肉の肥大化、
体毛の増加、攻撃性の増長。
改造兵とか、そう言う実験だったと推測している。」
さも、お気の毒そう言う語る医者だ。
だが、俺には悪寒がしてしまう。
もしかして、医療従事者が『男性』を知らない?
ヤバい。
もし、本当にそうならヤバすぎる。
その上、人体実験の話もヤバい。
彼女の言う通り、
改造兵のための実験ならまだいい。
これが性転換の完全なものを目指してるなら、
マジでヤバい。
魚とかカエルじゃないんだ。
男女比が狂ったからって、
人間は簡単には性転換できない。
この世界、
どんだけ追い詰められてるんだ?
俺は青ざめた顔で続きを聞く。
どうやら、俺の顔を見た彼女は勘違いを深め、
目を落とし俺の肩に手を置いた。
「大丈夫。
とりあえず、その手足の傷を治そう。
そして、その身体についても、何とかしよう。」
良く見ると、
俺の手足には包帯が巻かれている。
手に至っては、
もう切断するしかないと俺が思うほどの火傷だったのに、だ。
「治療用ナノマシンが、
その傷を治癒してくれる。
点滴と食事で栄養を調節すれば、
二日もあれば完治する見込みだ。」
SFかよ。
ナノマシン?
二日もあれば?
マジか、この世界。
そこまで医療が進歩してたら……。
いや、さすがに難しいか。
男女比がおかしくなった原因にもよるだろうが、
この感じだとたぶん解決できてない。
「ほら、水だ。
綺麗な水だから、飲んで。
ゆっくりだよ。
焦ったらだめ。」
俺は彼女から差し出されたコップを受け取り、
喉を潤す。
そして、軽く咳払いして、
声が出ることを確認した。
「包帯は外せないか?」
「後一日はつけてて欲しいな。
君は二週間も意識がなかったんだ。」
俺はそれを聞いて、
急いで自分にかけられた布団を剥ぎ取り、
身体を確認した。
股間からチューブが出ているのが見えた。
ここは前世と同じレベルかよ。
ナノマシン、頑張れよ……。
「……これも取って欲しいんだけど。」
「それは、そうだね。
用意させるよ。」
彼女は気まずそうにそう言った。




