閑話 予想外
指令部は、
水を打ったように静まり返る。
部屋の中を空調の音だけが響き渡る。
「ど、ドローンのバッテリーを、改造した?」
あまりに信じられないことに、
己の口から出した言葉すら信じがたい。
男が受ける教育は基本的な会話ができる程度。
文字の読み書きはおろか、
精密機器の扱いなんて知るはずがない。
「へ、兵士は?」
「……反応が、ロストしています。」
なんということか。
資源保護施設からの通達に対し、
嫌味を言いながら派遣した虎の子の兵士は、
たった今ロストした。
郊外活動ができるロボット兵は、
かなり貴重である。
男が脱走したから、という
理由がなければ派遣されなかった程だ。
「こっこ、こんなこと。
ありえない。」
ありえない。
そうだ。
そう繰り返す司令官に、
同情の視線が注がれる。
「お、男は?」
「……分かりません。
爆発の中心にいたものと思われますので、
生存は絶望的かと。」
「す! すぐ、次の兵士を用意して、探せ!
死体でもいい! 男を見つけろ!」
司令官は大慌てで、
次のロボット兵を用意させる。
「兵士は数が限られています。」
「ドローンでは、駄目だ!
爆発した跡に電子障害が起きていたら、
耐えられない!
最悪、誰かを現地に派遣しろ!
男だ! 男だぞ!
この世に約1700頭しかいない!
超重要資源だ!」
現地に誰かを派遣する。
司令官のその一言で部屋の中の空気が一変した。
「あそこは『境界』ギリギリです!
人を派遣したら、死亡する可能性が高い!」
「うるさい!
そんなことが理由になるか!」
反論した部下のもとへ、司令官が詰め寄る。
司令官の目は血走り、口の端に泡が見える。
「お前たちは、
この話を知るレベルの給料を貰ったんだろ?!
だったら、男が減ることの意味を、
知らないとは言わせないからな!」
また、指令部が沈黙する。
男がいなければ、人間は交配できない。
この事実は隠ぺいされている。
軍部の一部と政府高官のみ、知りうる事実だ。
一般人は、女性同士で恋愛し、結婚する。
妊娠、出産は政府へ届け出がないと許可されない。
政府への申請が通れば、
ペアのどちらかに受精卵が与えられ、
妊娠し、出産する。
そして、生まれてくるのは女児ばかり。
「国なんてレベルじゃない!
人類全ての大損失だ!
お前はバカか?!
お前ごときで、責任をとれるつもりか?!
お前らが死のうが、何をしようが!
償えるようなモノじゃない!」
司令官は喉が裂けんばかりの大声で、
部下を怒鳴り付ける。
あまりの怒気で彼女の顔は真っ赤になり、
額の血管が今にも切れそうだ。
「滅亡するんだ!
緩やかに、でも、
確実に人類は滅亡する!
それを食い止めるためにも、男が必要だ!
例え、死体であってもだ!」
指令部に重い空気が流れる。
鬼ような形相で、司令官は命令する。
「兵を、新しい兵を派遣しろ。
できないなら、お前が現地に行くんだ。
分かったか?!」