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第1話 独房の朝

 けたたましいブザーの音で目が覚める。

毎朝最悪な目覚めだ。

 俺はスプリングのないマットレスから急いで起き上がり、

鉄扉の掌のマークに両手をついた。

 扉の外の看守が順番に扉の覗き窓を覗いて、

番号を叫ぶ。


「4125774!」

「はい。」


 俺はかさつく喉から声をひり出して応えた。

看守が眼光鋭く俺の身体を見つめる。

俺は裸だ。

一糸纏わぬ、という状態だ。

 看守が特に朝勃ちした下半身を念入りに見る。

看守は女性しかいない。

嫌悪感すら感じる視線だ。


「朝の勃起を確認した。

朝食を出す。」


 扉のそばに壁と床に一体化した四角い箱がある。

その壁には穴があいており、

そこから食事がお盆にのせられて出てきた。

それは四角い箱の上にのって止まる。

 今日は黄色か。

黄色は柑橘系の味だ。

 座布団くらいの大きさの固めのゼリー。

一日三食、全てこれだ。

俺は扉から離れてテーブルの前の床に座った。

生のケツに床の冷たさを感じつつ食事を始める。

 食器はない。

手掴みで食べる。

まぁまぁ美味しいのと、

味のレパートリーが多いのが悔しい。

 床、壁、天井。

逆に言えば、

扉以外全てクッションのような素材で包まれている。

昔酔っ払って入れられた留置場の保護房よりいい部屋だ。

 スプリングのないマットレスも含めて、

この房は中の人間の自傷を防ぐ造りになっているようだ。

 だが、いかんせんそれらが全て褪せている。

鉄の扉は錆びだらけ。

掌のマークも剥げかけている。

マットレスの綿は綺麗に左右に別れて、

真ん中で寝ると床に身体が付く。

壁や床のクッションも色褪せて黒ずんでいる。

 決して綺麗には見えないこの独房。

どうしてこうなった。

俺はため息をつきつつ食事をすすめる。


「貴方は死にましたが、

特別に転生させてあげましょう。」


 あの日あの時、

目の前に現れた美女がそう言った。

 俺は20xx年、

就職活動中に移動のため乗った電車が事故に遭った。

原因は地震だ。

日本の制震技術が高くても、

大きな地震にはまだ対応しきれなかった。

 電車の車両ごと崩れた高架の下に落ちた俺は、

自分でも終ったと思った。

 その瞬間、目に映る全てのものが止まった。

始めは臨死時によく聞く現象だと思っていたが、

目の前に美女が現れたので驚いた。


「私の願いを聞いてくださるなら、

貴方を転生をさせてあげます。」


 願い、と言う彼女の顔は悲痛だった。

だが、こんな状態で聞かされた俺には、

ただひたすら困惑するしかない。


「お……、俺にできることなら。」


 俺はそう言ったものの、

内心冷や汗ダクダクだ。

この後のパターンなんて知れてる。


「難しいかもしれません。

ただ、行動を起こしてくれるだけでもいいのです。

どうか、どうか。」


 世界を救ってください。

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