お猫様
ご覧いただきありがとうございます。
楽しんでいただけますと幸いです。
今回はレノ視点です。
家の中を案内すると言われてライカの後ろを着いて歩く。
家の正面にある玄関は店用で居住スペースの玄関は背面にあるらしい。カウンター奥の扉は工房に繋がっており、工房からも居住スペースに繋がっているらしいが、危ないので立ち入り禁止との事だった。
そのため一度、店用の玄関を出て庭を通り裏手に回る必要がある。少し広めの庭には野菜や花が育てられており、ここも自由にして良いとの事だった。
説明をしながら前を歩くライカを見つめる。4年前と変わらない美しさだった。成長も老いも感じられないのである。しかしレノにも違和感はあった。
(こんなに小さかったっけ…?)
20センチほど下に頭があるのだ。お互いが立って話すと見下ろす形になる。逆も然り…と、先ほどの自己紹介の時にライカが振り返り、自分を見上げた姿を思い出して少し顔が赤くなる。
(何考えてるんだ、今は説明に集中ーー!)
首を振って雑念を払い気持ちを切り替える。
実はこの時、庭の野菜の話をいくつか聞き漏らしており、後から後悔するのはまた別のお話である。
居住スペースの玄関に着いた。外履きの靴はここで脱ぐそうで、室内履を勧められたためそのまま履き替えた。家の中は靴下や裸足で歩いても良いらしい。不思議なルールだ。
そう話すライカは室内から繋がる工房の扉前に室内履を置いて来たそうで、今は靴下のままトットットッと小さな足音を立てている。黒色の艶やかな髪を靡かせながら歩くその姿はまるで…
(黒猫みたいだ)
雑念再びである。
「猫?」
しかも声に出ていたらしい。
こちらを振り向き、首を傾げるライカに慌てて言い訳をする。
「外履きを脱ぐなんて猫に優しい家だなって、思って………」
苦しすぎる。
「確かに、外履きのまま家の中を歩いてたら、お猫様のおててが汚れてしまうものね。」
苦し過ぎる言い訳に対し、ライカは妙に納得をした表情をし、頷いている。そうはならないだろう。しかも聞き捨てならない事を言っていた気がする。
(お猫様のおてて…)
黒猫ではなく猫の信者だったらしい。猫を愛でるライカ、大変お似合いである。
レノに焦りとは裏腹に納得してしまったライカは家の案内を続ける。
「ここがキッチン、食料はここに入っているわ。ここがトイレとお風呂よ。そうそう、在る物は好きに使ってくれて良いし、必要な物があったら言ってちょうだい」
「ありがとうござ、ありがとう!」
まだ敬語不要に慣れない。ちなみさっきの言い訳は別である。
「あとはここが貴方の部屋よ。ひと通り揃ってると思うけど足りない物あるかしら?」
最後に案内された部屋にはベッド、クローゼット、机に椅子、姿見まで置いてある。
「十分過ぎる…!」
急に決まったとは思えないほどの揃いっぷりに思わず声が出る。そんなレノを見てライカは嬉しそうに笑う。
「たまーーに来客があるものだから揃えたのだけど、本当に稀なの。使ってくれて嬉しいわ」
なるほどと納得する。正直、今魔法で作ったと言われても信じていただろうが…
4年間にいつの間にか店に出現したテーブルやソファーを思い出す。
「それじゃあ荷解きもあるだろうし、部屋でゆっくりしていてちょうだい。夕食になったら呼ぶから」
そう言うとライカは部屋を出ていく。
「あっ…夕食、貰えるんだ…」
まだ仕事も始まっていないのに高待遇に感動するのも束の間、ある事に気づく。
(もしかしてこれ、恩を返すどころか膨らんでないか……?)
1人になったレノは部屋で頭を抱えるのだった。