道案内
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1人また1人と降りて行く人を見送りながら汽車に揺られ続けた。終着駅に着く頃には見渡せる限りではレノしか居なくなっていたため予想はしていたが、終着駅で降りたのはレノだけだった。
考えないようにしていた気持ちが湧き起こる。もし魔法使いが本当に居るなら皆、奇跡を求めてこの町に殺到するだろう。それが無いという事は…
旅に出るとは思えないほど小さなカバンを持ち直し、湧き起こってしまった気持ちを振り切るように街の中に歩き出した。
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ノブルという町は華やかでは無いが穏やかで豊かな町だった。観光地というわけでも無いため、町の案内などはなく、どこに行けばいいか分からない。店に入り道を聞く方法あるが、極力お金を使いたくないレノには選びづらい選択肢だ。
(そもそも「魔法使いに会いにきました!」と言って変な顔をされたらどうしよう…)
道行く人に話しかけることすら躊躇われる。
「何かお困りですか?」
立ち尽くすレノは側から見たら不審者だろうに、町の人と思われる老婆に声を掛けられた。その目には不信感はなく、ただただ困っていそうなレノを助けてくれようとしている事が分かる。
「えっ、あっ、はい。困っています…どこに行けばいいかわからなくて…」
声を掛けてもらえるとは思っていなかったレノは咄嗟に言葉が出なかったが、何とか困っている事実を伝えることはできた。
「どこに行けばいいか分からない…では、何をしに町にいらしたのか伺っても?」
半分パニックになっているレノに対し、老婆は優しく問いかけてくれる。
「魔法使いに会いにきたんです。この町にいると聞いて…」
この年まで御伽噺を信じる幼稚な者だと笑われるのではないか。そう思うと不安と恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。
「あぁ、やはり魔法使い様に会いに来られたのね。」
「えっ、分かっていたんですか!?これが魔法…?」
町の人から「魔法使い様」という言葉を聞けたレノは安堵から咄嗟に大声を出してしまった。だって「様」をわざわざ付けるのだ、特定の敬うべき相手が居るという事だろう。
そんなレノの様子に老婆は優しく笑う。
「魔法ではないわ。あなたの格好が移住や観光という感じではなかったからよ。きっと何か助けて欲しい事があって来たのでしょう?」
「あっ……はい、そうです。万能の魔法使い、様がいらっしゃると聞いて…」
レノは小さなカバンを抱え、さらに赤く小さくなった。魔法使いの存在を知っている町の者からすれば、少し考えれば分かる話だ。
「まあまあ、そんな小さくならないでくださいな?ほら、魔法使い様のお店はこの道を真っ直ぐ行けば着くわ。」
その言葉にレノはガバッと顔を上げ、指された方の道を見る。道の先が輝いているように見えた。
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
「いいえ、大した事ではないわ。早く行ってみなさいな。」
「はい、本当にありがとうございます!!!」
勢い良く頭を下げたレノの逸る気持ちを読み取ったかのように、老婆は先を急ぐことを促してくれる。そんな言葉に背中を押されて下げた頭の勢いのまま、店のある方の道へ駆け出した。
その背中を老婆の優しい声が追う。
「大丈夫、ここまで来れたのは魔法使い様のお導きだもの。きっと助けてくれるわ。」
(「お導き?」)
自分は導かれたのか。気になる言葉を聞いた気がするが、走り出してしまったレノにはその言葉に振り返り会釈を返すしかできなかった。