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ノブルという町

ご覧いただきありがとうございます。

楽しんでいただけますと幸いです。

 ライカと昼食を摂り、自室に戻った。


 机には朝食の時にライカから貰ったレターセットが置いてある。ずっと一緒に暮らしてきた家族宛に手紙を書くなんて思いも付かなかった事だ。


 「僕からの手紙なんて受け取ったら、母さんもリアも驚くだろうなぁ」


 離れた所で暮らすようになった家族を思い出しながら机に向かい、今の幸せを手紙に綴り始めた。


**********

 「あら?もう書けたの?」


 手紙を書き終わり、出かける準備をしてリビングに入るとライカが寛いでいた。


 「ああ!手紙を出してくる!」


 「そう、気を付けて行ってらっしゃい」


 そう言いライカが微笑んでくれる。


 「ありがとう、行ってきます!」


 レノはライカの言葉に笑顔を返して町に出かけた。


********

 (郵便局の場所、聞いておけば良かったかな)


 町に出たレノは自分が何処に行けば良いか分からないことに気づいたのだ。


 (ライカからは町を見てくるように言われたから、ちょうどいいのかも?)


 そう気を取り直して町中を歩く。4年前も昨日も魔法使いに会うための通り道にしただけなので、ちゃんと町の中を見たのは今回が初めてだった。


 清潔で豊かな街並みに、優しそうな雰囲気の住民達。ただ余所者は珍しいのかちょっと視線を感じる…


 少し居心地の悪さを感じながら歩いていると公園に出た。


 散歩をする人、ベンチで読書をしている人、楽しそうに駆け回る子供達…平和そのものだった。


 ふとベンチに座っている老婆に目が止まる。4年間、レノに魔法使いの店への道を教えてくれた人だった。


 レノは嬉しくなり、駆け寄り声をかける。


 「あの!すみません、僕の事覚えていますで、しょうか…?」


 勢いで声をかけてしまったが、少し後悔して声が段々と小さくなっていく。助けてもらった身からすれば忘れられないが、逆はそうではないだろう。ライカにも忘れられていたのだ。


 「あらあら、こんにちは。ごめんなさいね。どちら様かしら?」

 

 老婆は頬に手当て、首を傾げる。案の定、困らせてしまった。


 「突然話しかけてしまい、すみません。4年前、魔法使いの店を探しに来た時に道を教えていただいた者です。お見かけして、どうしてもあの時のお礼を言いたくて声をかけてしまいました…」


 「まあ!あの時の子なの?大きくなったのね、気づかなかったわ。魔法使い様を訪ねてくる方は珍しいから覚えていますよ」


 「覚えて居てくれたんですね!ありがとうございます!あの後ちゃんと店に辿り着けて、妹を助けてもらって…町に着いてどうしようもなく不安だった時、声をかけて下さった事、ずっと感謝していました。改めてありがとうございました!」


 うんうんと老婆が笑顔で頷いてくれる。

 

 「それは良かったわね。今日はどうしてこの町に?もしかして魔法使い様にお礼を言いに来られたのかしら?それだと残念ね。そういう方はもうあのお店に辿り着けないのよ…」


 「?えっと、今日は手紙を出しに来たんです。その、今日から魔法使い様の所で働かせてもらえることになったので……」


 「魔法使い様の所で働く…?」


 レノの言葉に老婆は心底驚いた様な顔をした。


 「はい、4年前お代を受け取ってもらえずに帰されてしまったので、今お返ししてるんです。20歳になったら働きに来て良いと言われたので全力で恩返しをと…」


 「まあまあまあ!生きている間にこんな珍しい事が起こるなんて!」


 老婆が興奮気味に応える。心底嬉しそうな事は伝わってくるのだが理由が分からない。


 キョトンとしているレノに老婆が笑いかける。


 「魔法使い様はあまり人を招かないし、町に出て来られることもないのよ。たまに貴方の様な、人の力ではどうしようもない困り事を抱えた方を招かれるのだけど…お礼を言うためにもう一度訪ねようとしても辿り着いた方は居ないのよ?」


 「ええっ!?僕普通に……あっ!」


 レノはふと妹のリアが店にたどり着けなかった事を思い出す。


 「何か心当たりがあるのかしら?ふふふ、だからね私は嬉しいのよ。貴方が魔法使い様との繋がりになってくれる様で。」


 「繋がり?」


 「ええ、この町はずっと魔法使い様に守っていただいているのよ。雨が続いて近くの川が氾濫しそうになった時、森に入って帰って来れなくなった子供が居た時、町に流行病が蔓延した時…不思議な力が助けてくれた事を町の住民は覚えているの。でも口惜しい事に助けてくれた事へお礼を言えたことがないんですよ?」


 「そう!僕崖から落ちそうになった時、ふわって体が浮いて助かったの!でも魔法使い様に会った事ないの…」


 急に聞こえてきた老婆の話に賛同する声に、驚いて周りを見ると公園に居た人たちが集まって来ていた。


 「おにーさん!魔法使い様に会えるの?僕の代わりに助けてくれてありがとって伝えてくれる?」


 先ほどの声の主らしい少年が言うと、周りにいた人達からも私も、自分もと声が上がる。


 びっくりして固まっているレノに老婆は優しく言う。


 「皆、魔法使い様に何もお返しできていないのよ。助けてくれるのだから私達を嫌って会ってくれない訳ではないと思うのだけど、何十年、何百年と姿を見せた記録がないから無理に関わるのはお嫌いかと控えていたの…」


 どうか自分達の声を魔法使い様に届けて欲しいと老婆は続ける。


 老婆の願いにレノは町の人達の声に深く共感した。

 

 (この町の人達は一昨日の僕達家族と一緒なんだ)


 恩を返せていない。返せるか分からないという不安な気持ちをレノはこの4年間ずっと感じてきたのだ。今だって恩を返し切れるか不安なのだ。


 「勿論です。いくらでも伝えます!」


 力強く町の人達に返事をする。レノの言葉に周りを囲っていた人達が喜び合う。…なんだか人が増えている気がする。


 町の人達の喜ぶ声を聞きながら、ふとレノは老婆の言葉を思い出した。

 

 (何十年、何百年…?)


 20年しか生きていないレノには途方もない表現だ。そんな表現に似合わない優しく微笑む美しい魔法使いの顔を思い浮かべるのだった。

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