第四話 ドラゴンとの遭遇
まだ完全に日が昇っていない頃に奎援は目が覚めた。どうやら2~3時間位は眠れたようだ。
「体がいつもみたいに重くない・・・ってことは今は覚醒状態か・・・」
奎援は完全に目が覚めているときと眠気が残っているときとでは完全に別人だと思うほどだった。それに、覚醒状態でいられるのは一日が限界だったのだが、異世界に来て若干変わったようだった。
若干のだるさはあるものの、奎援は山を越えるため、歩き始めた。最初のほうは林が広がっていて、食べられそうなものを確保しつつ進んでいたが、途中からゴツゴツとした岩道になり、ペースが落ちる。それに、こっちの世界にきて、まだ何も食べていないいので、力も衰えている。食料は確保してあるのだが、本当に食べられるのかどうかわからないことにより、食べたくても食べられないのだ。そんな考えをめぐらせているうちに奎援の足が止まった。それにあわせるように
「そっちの果実は食べられるけど、他は無理だよー」
なぜか学生鞄をもったレイルが現れた。
「それ、俺の鞄だよな・・・?」
疑問に思ったことをレイルに言う。こっちの世界に来た時、鞄がどこにも見当たらなく、諦めていたからである。鞄の中には、私服が入っており、少なくとも制服よりは動きやすい格好になれる。
「あれ?言ってなかったっけ?鞄は預かってるから、ほしいときはいつでもいってねーって」
「いや、言ってない。それに、制服じゃなかったら少なくともザープとかいうやつにおくれを取ることはなかったぞ・・・・まぁ、過ぎたことだからちょっと貸してくれ、いい加減制服では動きずらくてね・・・」
そういって奎援はレイルから鞄を受け取り、私服に着替え始める。
見事なまでに黒一色で揃えられた私服は、暗闇にまぎれたらそのまま見えなくなるんじゃないか?と思わせるほどだった。
「よし、これでカンペキ・・・ところで、どっちに行くべきだと思う?」
そう、奎援が止まっていた理由は分かれ道に差し掛かっていたからである。
片方はおそらく、このまま登っていく道。もう片方は洞窟である。
「洞窟でいいんじゃないかな?もしかしたら時間短縮できると思うし」
「わかった。洞窟だな。通り抜けられることを祈るか・・・」
そういって食べられるものを全てたいらげてから、奎援は洞窟に入っていった。レイルは奎援が食事を取っている間に鞄を持ったまま、消えていった。
洞窟の中は薄暗く、とても暑かった。どうやらこの山は火山のようだ。おそらく、制服のまま進んでいたら暑くてへばっていただろう。
湧き出る汗をぬぐいながら黙々と進んでいく。
「はは・・・、この赤いどろどろしたのって、溶岩だろうなぁ~・・・」
そんなことを言いながらも進む速度は落とさない。一本道だから、迷うこともなく、順調に進んでいると、ふいにイヤな予感がした。そんなイヤな予感を感じながらも奎援は進む。
洞窟に入ってから二時間ほど歩いたところにそれはあった。
広い空間に六人ほどの武装した男と、四人ほどの魔術師らしき男たちが死んでいたのだ。
その先には沢山の武器が刺さった竜が横たわっていた。
「ド、ドラゴン・・・?」
奎援のつぶやきに、ドラゴンはその存在に気がつき、今にも事切れそうなドラゴンが最後の力をふりしぼって立ち上がり、点をも貫くような咆哮をし、力尽きた。その誇り高き竜の最期を見届け、奎援はなんとも言い表せない気持ちになった。
早急にその場から立ち去ろうとドラゴンの横を通ろうとしたときに、丸い何かが奎援の目にとまった。
「これは・・・卵?」
結構な大きさの卵が1つ、死んだ竜がそれを隠すように覆いかぶさっていた。
「これを守るために戦っていたのか・・・・と、いうことはこの死んでる人はその卵を奪いに来たってところかな・・・」
それなら、放っておくわけにもいかないと思い、レイルを呼び出して、学生鞄を出してもらう。制服で卵を包み込むようにして、学生鞄の中に入れる。生憎、私服以外に何も入っていなかったので、なんとか卵が学生鞄の中に入った。
「さて、これを割れないように運ぶにはどうしたもんか・・・」
モンスターや山賊が出そうな気がして、奎援が悩んでいるとレイルが口を開いた。
「ボクに任せてよ。さっきと同じようにすれば、卵も無事だし、戦闘にも影響は与えないと思うよ?」
先ほどとは、洞窟に入る前に鞄を持ったままいきなり消えたことか、と納得してレイルに任せることにした。奎援はレイルに鞄を渡し、レイルはそれを受け取って、消えていった。
「一種の四次元ポケットだな・・・」
奎援はそのまま、何事もなかったかのように歩き始めた。
一方、騎心達は・・・・
「や、やっとついたぁ~・・・」
そんな騎心の声が響く。本来なら山を越えるのに4~5日、草原のルートで6~8日かかる距離を騎心達は1~2日で移動していた。
「本当は山なんて通りませんし、危険すぎるから使わないのですけど・・・なんとかなったみたいで何よりですわ」
騎心は今、聴いてはいけないような言葉が聞こえた気がしたが、あえて聞き流した。
「後は奎援が来るのを待つだけなんだけど・・・まぁ、先に城に入っちゃおうか」
騎心がそういうと、ミリティアが若干暗い雰囲気を出して、うつむいた。何気に息一つ切れていない瑞姫は絶対生きてる、と信じていたので何も言わない。当然、騎心も同じ気持ちだった。
「まぁ、そんな気にしても仕方ないし、奎援なら余裕だよ。これまでもそうだったから、きっとこれからもそうだよ」
騎心はそういって歩き始める。
姫、もとい第一王女が誘拐されてとてもあわただしい雰囲気がしている街中を平然と歩く。誰も、ミリティアに気がついていなく、すんなりと城の前までこれた。
城の前まで行くと、兵士が門のところに立っており、こっちに声をかけてきた。それに気づき、ミリティアが兵士の対応をしようと前に出ると、兵士の驚きの声が城中に響いた。