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第40話 シンデレラって一応恋愛ものだから、やっぱりああいうシーンも必要かなって思ってさ

 遂に迎えた学園祭一日目の今日、先程開会式が終わり学内が一気にお祭りモードへと移行した。進学校であるうちの学校も学園祭の二日間は皆んな勉強を忘れて思いっきりはしゃぐ。

 ちなみにくじ引きをした結果、俺達のクラスが演劇のトップバッターとなったため開会式が終わってからすぐに体育館へと移動して準備をしている。

 衣装に着替え終わった俺がステージ裏で台本の最終確認をしているとシンデレラの衣装に身に纏ったアリスがやってきた。


「拓馬、もう準備は万端?」


「ああ、後はセリフが棒読みにならないように精一杯頑張るさ」


 大根役者過ぎたせいで演劇練習は本当に大変だったが今日のために今まで一生懸命頑張ってきたのだからきっと上手く行くはずだ。


「うんうん、私達が主役だから一緒に頑張ろうね」


「だな、頼むぜシンデレラ」


「王子様もね」


 それからしばらくして演劇開始のアナウンスとともに体育館の照明が全て消えて暗転し、俺達のクラスの演劇がスタートする。

 最初にナレーションが入り、それから継母役と意地悪な姉役のクラスメイト達とともにシンデレラ役のアリスがステージに登場した。

 まだ舞踏会に参加する前のためシンデレラの衣装は地味だがそれでもアリスはめちゃくちゃ美人だ。


「ちょっと、シンデレラ。部屋の掃除は終わったの? 全然綺麗になってないんだけど」


「お姉様、ごめんなさい。まだ料理が終わってなくて……」


「ねえ、シンデレラ。食事の準備はまだ? さっきからずっと待ってるのにいつまで経っても料理が出てこないのはどうなのかしら?」


「お母様、すみません」


 王子様の出番はまだ先なので舞台袖から演劇を見ていたがシンデレラ役のアリスと継母役、意地悪な姉役のクラスメイト達の演技はかなり迫真じみていた。

 練習期間が1週間足らずとはとても思えないほどのレベルだ。演劇監督がめちゃくちゃスパルタだったのが大きいに違いない。その後も順調に演劇は進行していき、王子様の出番がやってきた。


「なんと美しい方だ、私と踊って頂けますか?」


「私なんかで良ければ」


 アリスのセリフの後、俺達はステージの上で踊り始める。この踊りも演技指導がめちゃくちゃ入ったためかなり練習していた。だから音楽を聞くだけで体が自然に動くようになっている。


「あなたは私の運命の女性です。私と……」


「大変、もうすぐ十二時だわ。帰らなくちゃ、ごめんなさい、王子様」


 鐘の音とともにステージが三十秒ほど暗転して場面が切り替わり、いよいよクライマックスであるガラスの靴の持ち主探しが始まる。この演劇も後少しで終わるためちょっとだけ名残惜しい。


「やはりあなたが昨日踊った美しい姫だったのですね、私と結婚してください」


 この後はアリスが演じるシンデレラの”はい、喜んで”というセリフでステージが暗転し、ナレーションを挟んで終了という流れで終わりだ。


「では婚約の証として私にキスをしていただけませんか?」


「……えっ?」

 

 突然アリスが台本に無かったセリフを口にしたせいで俺は思わず間抜けな声を出してしまった。周りにいた継母役、意地悪な姉役、兵士役のクラスメイトも全員ポカンとした表情になっている。

 いやいや、アリスは一体何を考えているんだよ。そうツッコミを入れたかったが、まだ演劇が終わっていない事を思い出したため慌てて軌道修正を図る。


「……分かりました。それでは目を閉じてください」


 どうせ観客席からは遠目でよく見えないはずなのでキスをするフリだけで済ませよう。俺はアリスを抱き寄せて唇と唇が密着しそうな距離まで顔を近付ける。

 よし、こんなもんでいいだろう。だがアリスがそれで許してくれるはずが無かった。なんとアリスは離れようとしていた俺の腰に手を回して逃げられないようにした上で舌をねじ込んできたのだ。


「!?」


 アリスはまるで観客達に見せつけるかのように俺と公開ディープキスを始めた。観客席もかなりザワザワし始めており中々カオスな状況だ。


「王子様、ありがとうございます。もう二度と離しませんから」


 ようやく唇を離してくれたアリスがそう口にした事でステージが暗転し、最後のナレーションが入って演劇は終了となった。


「……なあ、さっきのあれは一体何のつもりだよ?」


「もしかしてキスの事? シンデレラって一応恋愛ものだから、やっぱりああいうシーンも必要かなって思ってさ」


「そうかもしれないけどさ、それにしたって限度ってもんがあるだろ」


 俺はそう抗議するがアリスは完全にどこ吹く風といった様子だ。多分これ以上何を言っても無駄に違いない。


「それよりこれから時間もいっぱいあるしあちこち回ってみようよ、やりたい事が色々あるんだよね」


「分かったからそんなに手を強く引っ張るな」


 俺は上機嫌なアリスに手を引かれて学内を回り始める。模擬店で食べ歩きをしながら他のクラスの演劇を見たり、一年生の教室展示を見たりして過ごしているうちに学園祭初日はあっという間に終了となった。

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