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第1話 拓馬、約束はちゃんと守って貰うからね

 今日は朝からクラスメイト達が盛り上がっていた。どうやらこのクラスに転校生が来るようで、噂によると超が何個も付くほどの美少女らしい。朝から教室内はとにかくその話しで持ちきりだ。


「転校生ってどんな子だろ?」


「めちゃくちゃ美少女って噂だせ? 彼氏とかいるのかな」


「もし彼氏がいなかったら俺が立候補するわ」


「お前のその顔じゃ絶対無理だろ」


 そんな感じの会話が男子を中心にして教室のあちらこちらから聞こえてきているわけだが、俺にとっては転校生なんて正直どうでも良かった。

 なぜなら俺とほとんど関わらない事が分かり切っているからだ。俺、黒月拓馬(くろつきたくま)という人間は世間一般的にいういわゆるぼっちという奴であり、必要最低限しかクラスメイト達と関わりがない。

 そのため俺が転校生と関わる事などほぼ無いはずだ。もしあったとしても業務的な会話を適当にするくらいだろう。

 だから俺は盛り上がるクラスメイト達そっちのけで席に座って授業の予習をしていた。一部のクラスメイト達から馬鹿にするような視線を向けられているが、特に害は無いため無視している。

 それからしばらくして教室の扉が開き、担任の女性教師である鳴神美香(なるかみみか)先生が教室に入ってきた。

 うちの高校では基本的にテストなどの特別な日以外朝のホームルームは無いが、今日は転校生の紹介があるため例外だ。鳴神先生は教壇に立って教室内が静まり返ったのを確認すると話し始める。


「おはよう、先週のホームルームでも話した通り今日からこのクラスに転校生が来るぞ。十六夜(いざよい)さん、入ってきてくれ」


 鳴神先生がそう言い終わると教室前方の扉が開いた。そして転校生が教室の中へと入ってきたわけだが、その瞬間教室内に大きなどよめきが起こる。

 気になって顔を上げると黒板前には金髪ミディアムヘアで翠眼の美少女が立っていた。かなり整った顔立ちをしている彼女は文句のつけどころがないほどの美少女だったため、クラス中の男子達が騒ぎ始めるのも無理ないだろう。

 エキゾチックな容姿的にヨーロッパ系のハーフなのかもしれない。どうせまともに話す事なんて無いだろうがここまでの美少女は滅多にお目にかかれないため、せいぜい目の保養でもさせてもらうことにしよう。

 そんな事を思いながら転校生を見つめていると、不意に目があった。最初は偶然こちらを見ただけだと思っていたが、いつまで経っても俺から視線を外そうとしない。

 彼女の緑色の瞳にじっと見つめられた俺は、何故か分からないが背中に猛烈な寒気が走る。今すぐここから逃げなければ何か取り返しのつかない事になりそうな予感さえした。

 美少女から見つめられるという男子にとってはめちゃくちゃ嬉しいはずのイベントが発生したというのに、なぜこんなにも不吉な予感がするのだろうか。


「じゃあいきなりにはなるが、皆んなの前で自己紹介よろしく」


「皆さん、初めまして。()()アリスです」


 あれ、さっき鳴神先生から十六夜さんって呼ばれてなかったっけ?

 俺以外のクラスメイト達も同じ事を思ったようで、自己紹介を聞くため一旦静かになっていた教室内が再びざわざわし始めた。鳴神先生も気になったらしく彼女に問いかける。


「確か入学手続きの書類の名前欄には十六夜アリスと書いてあった気がするんだが……」


「あっ、ごめんなさい。十六夜で間違いないです、今はまだですけど」


 鳴神先生からの質問に対して十六夜さんはそう答えた。今はまだとは一体どういう意味なのだろうか。


「……えっと、今はまだって事はひょっとして今後変わる予定でもあるのか?」


 鳴神先生からそう聞かれた十六夜さんは俺の顔を見てニヤッとした表情を浮かべると、次の瞬間とんでもない発言を口にする。


「あそこに座っている黒月拓馬君の未来の妻になる予定なので、いずれ十六夜から黒月に苗字が変わります」


「えっ!?」


 俺はここが教室という事も忘れて思わず大声をあげてしまった。だが初対面の美少女が突然自分の未来の妻を自称し始めたのだから驚くなという方が無理に違いない。

 当然俺以外のクラスメイト達も驚きの声をあげており、教室中から視線を向けられている。結婚どころか付き合ってすらいないわけだし、そもそも十六夜さんとは今日が初対面のはずだが。

 ひょっとして何かのドッキリかと思い始める俺だったが、いつまで経ってもネタばらしが始まりそうな気配は無い。


「じ、自己紹介はこれくらいにして席に着いて貰おうか。十六夜さんの席はあそこだ」


「はーい」


 このままでは収拾が付かなくなると判断したらしい鳴神先生は十六夜さんとりあえずを席に着かせる事にしたようだ。

 十六夜さんは鳴神先生が指差した席に向かってゆっくりと歩き始める。そして俺の席の隣を通り過ぎようとした時、一瞬だけ立ち止まって口を開く。


「拓馬、約束はちゃんと守って貰うからね」


 俺にだけ聞こえるような小さな声で話しかけてきた十六夜さんは強い歓喜の表情を浮かべていた。俺の平穏な日常は未来の妻を自称する十六夜さんが現れた事により大きく狂い始める。

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