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62話 足止めされる

 カツペルと話し合っている間に窓の外は雲行きが怪しくなり雨がポツポツ降り始めた。

 足早にウツィアの部屋へ向かっている間に晴れ間が戻り、遠くの通り雨を横目にウツィアの部屋の扉を叩く。


「ウツィア?」


 入れ替わりウェズがウツィアの部屋を訪ねるも当然ウツィアはいなかった。テーブルの上に置かれた自分宛ての手紙を読んで再び顔を青褪めて執務室へ戻る。当然執務室にいたカツペルもマテウシュも驚いた。


「うおっ、早すぎじゃないですか」

「ウツィアに聞かれていた」

「へ?」

「契約のことを聞かれていた」

「うわあ……」


 ウツィアの手紙の内容を伝えるとカツペルはドン引きした。自身の主人の間の悪さにカツペルは言葉を失う。けれどウェズは今回ばかりは諦めていなかった。


「ウツィアを追う。領地シュペンテに向かう」


 力強く言って瞳が輝き強さを示す。カツペルはやっとかと思いつつ主人の決断に頷いた。


「馬車の用意します」

「いや、馬で行く」

「へーい」

「旦那様」


 執事長マテウシュから待ったがかかった。

 先程話していたあの酔っ払いが面会に来たという。


「別日に」

「それが旦那様、領地外の川沿いで不審な動きをする者がいると言う情報の提供なのですが」

「何?」

「旦那様、奥様が単独で行動している以上、不審者の確認をしてからの方がいいのでは」


 馬車で移動中のウツィアに何かあってはたまらない。恐らくあの護衛見習い二人を連れて行っているだろうけれど、まだ遠出には早い。そうなるとここで不審者を捕えておくのが一番だ。ウツィアの安全が第一だと言い聞かせ、ウェズは領主として仕事をこなすことを優先した。


「……話を聞こう」


 件の男はすんなり領主と面会でき、緊張の面持ちのまま対面した。目は洗い流せば本当にすっきりして先程のことなど微塵も雰囲気がない。


「情報提供があると聞いた」

「そうなんですけど、最初に言っておきますね。俺、特段奥様と結婚したいとかないんで! 人妻に興味ねえです!」


 ウェズのくすぶる殺気がおさまる。


「成程」

(ほっ)

「俺、実はずっと戦争英雄の領主様に憧れてて……陰ながら応援してたんすが、生で会えたら感極まったってやつで」

「そうか。私は君の推しなのか」

「おし?」

「こちらの話だ」


 ウツィアの言う古文書用語だったと思い、なにげない顔をして先を促した。


「本題に入ろう」

「あ、はい! 領主様が退かせたセモツの雇われ傭兵が少規模で纏まって国境付近を荒らしてたんですよ。おかげでこっちの商売に影響でてこの前も損がでてやけ酒してたんですけど、それはさておき、その少数グループが南下を始めたんです」

「……規模は」

「十人程でしたよ。国の憲兵には連絡済みなんで対応はしてもらえると思いますけど、最初に狙われるのは旦那様の領地だからって、これを渡すよう頼まれました」


 手紙を渡される。独特の紙質はよく知るものだ。


「王室の印で間違いないですね」


 執事長マテウシュが確認し、中身を手に取る。


「……王女め」


 苦々しく囁く自身の主人に慣れてますとばかりにカツペルがウェズの持つ手紙を受け取った。


「はいはい、どうせ頼まれちゃったんでしょ。主が出れば、王都の騎士が来るよりも早くに済むし」


 一刻も早くウツィアを追いたかったのにとウェズは歯噛みした。目の前のファンの男に視線を寄越す。


「君も付き合え」

「え、いいんすか?!」


 思ってもみない誘いに男は喜んだ。


「憧れの英雄と共闘?! 最高っすわ!」

「嘘ついてなさそうですね」


 情報発信者は念の為連れて行くつもりでしたけど、とカツペルがぼやくも推しとの共闘に胸がいっぱいになっているただの酔っ払いだったファンは気づかない。


「森の常駐騎士に早馬を出すように」

「了解です」


 情報は確かなものだった。危なげなく制圧し、後から来た王都の騎士に引き渡しを完了するまで三日かかったのは苦しい限りだったけれど、その後は邪魔なくウェズは旅立てた。


「ウツィアのところいってくる」

「いってらっしゃーい。ゆっくりでいいすよ~」

まあ故意じゃないですが、ウツィアのとこに行けないウェズでした。そしてウツィアの古文書用語を覚え使い始めるウェズ(笑)。真剣に追いかけなきゃいけない場で(っ'-')╮=͟͟͞͞ (シリアス) ブォンですなあ。


今日のちょこっと占い→意固地よくないよ!引き籠りに磨きがかかりそうなので外に出る事を意識しましょう(熱中症に気を付けましょう)

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