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6話 契約結婚

 ウェズの言うことは間違いない。三人にそう思わせるには充分だった。


「援助の話、有り難く受けましょう」

「お父さま?!」


 けれど伯爵家には過分、同じ境遇の家門に分けてもいいか確認し、ウェズはこれに了承した。援助金を無事に受け取ってくれてほっと肩の力が抜ける。


「……公爵閣下」

「はい」

「ウツィアと結婚する気はありませんか?」

「え?」

「え?!」

「お母さま?!」


 これにはウツィアの家族も驚いた。


「う、ウツィア嬢と?」

「ええ。実は隣領地デリカトゥネを持つミオスネ子爵家が援助金を盾にウツィアに婚姻を求めてきて」

「それなら私の援助金があれば問題なく断れるのでは?」

「いいえ。あの家はオトファルテ伯爵家の領地と事業が欲しいのです。援助金がなくても婚姻の申し出は今後もあるでしょう」


 話に聞いた通り、ウツィアの幼馴染みは婚姻の申し出をしている。けれど援助金の件がなくても求めてくるとは考えてなかった。


「……ウツィア嬢はその婚姻を了承してらっしゃるのですか」

「いいえ。そこは娘に確認済みです」


 やはり望まぬことなのだとウェズは握る手に力を込める。伯爵夫人はそれを見逃さなかった。


「何故、私にこのような話を」

「ウツィアが恩人と言うからには大切にしてくれると思いました」

「しかし私のことは御存知でしょう?」


 ウェズは世間であまりよくない評価を得ている。

 顔に見るも無惨な傷跡があり女性は見るなり卒倒するだの、戦争で武功を上げたことが何故か暴力的で粗暴な男と言われたりと、戦争での功績が裏目に出ているようなものばかりだ。


「世間の噂はあてにならないと今痛感しておりますわ」

「!」

「どうかしら?」

「私はウツィア嬢と十歳も離れている行き遅れです」

「それを言うなら二十歳を迎える娘も似たようなものよ」


 意外と譲らない伯爵夫人にウェズは視線を下げた。ウツィアと婚姻すれば、あの庭で共に過ごしたように穏やかな時間を共有できるのだろうか。想いだけが募る。


「……分かりました。お話、お受けします」


 ただし、とウェズが条件を出す姿勢に伯爵夫妻が改まる。


「ウツィア嬢が私との婚姻に了承してくださることが前提です」

「当然だ。確認しよう」

「あと、期間を」

「え?」

「婚姻期間をその幼馴染、リスト・ミオスネ子爵令息が相手を見つけて婚姻するまでとして頂きたい」


 至極真面目に言うウェズに対面する三人は同時に首を傾げた。


「「「は?」」」

「ミオスネ子爵令息が他の令嬢と婚姻すれば、しつこく申し出をする者もいない。ウツィア嬢は自由になり好きなことができます」

「え?」

「御安心下さい。伝手はあります。ミオスネ子爵令息に知られないよう縁談を運ぶように手配します」

「んん?」

「ちょ、待てよ?!」


 ここにきてだんまりだったウツィアの弟、オトファルテ伯爵家長男チェプオが勢いよく立ち上がった。


「お前、なに言ってるか分かってんの?! お姉さまと契約結婚する気なわけ?」

「ああ、結果的には契約になるか……丁重にもてなすことを約束する」

「いやいやいや! 丁重にもてなすの当たり前だから! その前だよ! 契約ってなんだよ! お姉さま……可愛いくて聡明で優しい姉さまと結婚だぞ?! 契約程度の人間だと思ってるわけ?!」


 ウェズに対してあまりの無礼に伯爵夫妻は諌めたがウツィアの弟チェプオは怒り収まらない。


「オトファルテ伯爵令息の言う通り、ウツィア嬢は可愛いらしいし聡明な女性だ」

「そうだよ! そんな姉さまに契約結婚の申し出とかお前馬鹿なの? 地面に這いつくばって結婚させてくださいとかいうレベルだろ?!」

「チェプオ、やめなさい」

「……ぐぐ」


 ここにきてウェズは這いつくばろうか悩んだけれどやめておいた。


「公爵閣下、ウツィアには正式な申し出として話を持っていきます」

「……分かりました」

「閣下の気が変わりましたら、私たちはいつでも正式なものとして婚姻を受け入れます」

「お母さま?!」

「しかしウツィア嬢は」

「ウツィアには時がきたら私から話をしましょう。勿論公爵閣下からお話頂いても構いません。それまでは正式な夫婦として過ごしてください」


 それは困るとウェズは内心焦る。けれど、そうでないと伯爵側が受け入れてくれなさそうだった。契約結婚であることを隠して騙す……正式な婚姻として話を持っていってウツィアが了承するのだろうか。


「ではウツィアに閣下から正式な婚姻の申し出があったと伝えます。お返事は領地に? 王城に?」

「王城ポッドピサーチにお願いします」

「はい」


 伯爵家を出る。緊張に疲れが出たがやることがあると急いで馬を走らせた。話を王子と王女に通さないといけない。

 城では二人がのんびりお茶を飲んでいた。ウェズの早い帰還にうまくいったのかとソファにもたれかかっていた身体を起こす。


「早かったね」

「うまくいった~?」

「御二人にお願いがあります」


 首を傾げる二人に伯爵家でのことを話した。


「というわけで、リスト・ミオスネ子爵令息に縁談を持っていって欲しいのですがお願いできますか」

「……」

「……」

「?」


 絶句した二人にウェズは首を傾げた。王家が縁談の斡旋とはさすがにプライドが許さないだろうかと思ったところで王女の絶叫が響く。


「ふっざけんじゃないわよ!!」

「私は真面目に話を」

「そこじゃないわよ! なんでウツィアに婚姻の申し出しないのよ!」

「しました」

「あんたがしたのは契約! ほんちゃんのよ!」

「しかもあちらに気を遣ってもらった形だしね……まあ今回は姉様に同意だなあ」

「王子まで」


 肩身が狭い。ウツィアにとっての最善を考えたのに何故そこまで言われるのだろう。


「斡旋が難しいようなら自分でどうにかします」

「待ちなさい」

「しかし」

「これ以上話をややこしくさせる気? もうその子爵家の結婚相手探しは引き受けるから、ウツィアと結婚してさっさと告白しなさいよ」

「告白……」

「それも僕は姉様に同意」


 味方がいない。


「告白……」


 ウェズがそれを成し遂げられるまで約一年かかると知る者はこの場この時誰もいなかった。


「その前に一発殴らせて」

「王女の手が痛むだけかと」

「うっさいわ! こっちは気がおさまらないのよ!」


 結局、王子が止めて王女がウェズを殴ることはなかった。

(っ'-')╮=͟͟͞͞ (シリアス)ブオン

ここの恐ろしいところはウェズがいたって真面目に言ってるというとこですね~いやあ抜けてますなあ(笑)。そして重度のシスコンな弟チェプオの声がキ○○クになった瞬間(笑)。這いつくばるのもありだったなと今も思います。

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