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42話 ウツィアの実家でランチ&恋バナ

『一緒に行かないか』

『建国祭だから、王城の社交界にも参加するが、そういうのが煩わしいなら参加しなくていい。ただ雰囲気だけでもウツィアと一緒に楽しめればと思って』


 夫の言葉を聞き、単純に嬉しかった。今では領地内の川辺で過ごした時間が恋しい。


(私、夫と家族になりたいんだわ。じゃなきゃこんな嬉しいなんて思わないもの)


 今、王都に向かって進む馬車の中で感慨にふける。


「身体は辛くないか?」

「大丈夫です。道も整備されてて揺れも激しくないですし」


 事実ウェズが手掛けた領地から王都へ続く道は綺麗にならされていた。結婚した時もウツィアの領地からウェズの領地まで快適に進めた記憶がある。そこも踏まえた上で夫のすごさに感心した。


「この規模を整備するのは大変でしたね」

「領民がよくやってくれた」

「ウェズが必要だと許可を出したおかげですよ。商人も移動者も助かってるはずです」

「ああ……ウツィアが褒めてくれるだけで整備したかいがあったな」

(嬉しい)

「!」

(素直! 可愛い!)


 最近はこうして言葉にしてくれることも増えた。深く話すことはまだできていないけれど、歩み寄ってくれる姿が嬉しい。


「王都に行く道にはウツィアの御実家もある。以前できなかったから今回は御挨拶をしていこうかと」

「はい」

「御主人とすぐ下の弟君は既に王都に出ているそうだ。夫人と妹君と顔を合わせる」

「わかりました」


 あの子も時期当主として王へ御挨拶ってとこかなと弟チェプオを思い出した。


* * *


 程なくしてウツィアの実家領地シュペンテに着く。連絡を受けていたウツィアの母と妹は外で出迎え、馬車からおりてくるウェズとウツィアを見た。エスコートをするウェズの柔らかな雰囲気に緩んだ目元、そして自分たち家族に見せたことがないウツィアの態度を見て、母であるチェスタオツェはウェズと初めてあった時の直感は間違いないと気づく。母親としての感は正しかった。妹マゼーニャは姉と義兄が似合いの夫婦になっていてテンションがあがる。


「お姉様!」


 妹が走ってウツィアに抱きついた。


「マゼーニャ! 貴方きちんと御挨拶しないと」

「だって! お姉様に会えると思うとつい」

「ふふ、久しぶりだものね。仕方ないわ」

「……」

(姉妹仲が良い……可愛い)


 元気そうでよかったと髪を撫でる。変わらない姉ウツィアの様子にマゼーニャも安心した。

 母チェスタオツェがマゼーニャを追ってゆっくり近づく。


「お久しぶりです、伯爵夫人」

「御母様」

「二人ともよく来てくれました」


 ウェズが先立って挨拶を行い、そのままチェスタオツェは庭の奥を掌で指した。


「先は長いでしょう? 食事を用意しました。召し上がって下さい」

「ありがとうございます」


 庭に用意されたテーブルに四人囲んでランチだ。

 あまり畏まった場にしていないのは母の配慮だとウツィアはすぐに分かった。ウェズに気を遣ってくれたのだと思うと、それだけで嬉しい。


「お姉様、お兄様は次期当主として先にご挨拶に行かれたわ」

「公爵閣下、オトファルテの事業の話は夫スツからきいてください。閣下の援助のおかげで従前まで取り戻しつつあります」

「オトファルテ伯爵の御力でしょう。ですが安心しました」


 真面目な話を進めていると妹のマゼーニャが唇を尖らせた。


「もー! お母様、堅苦しい話は嫌です」

「まあ、貴方だって知っておいて損はないのよ。普段教えているでしょう」

「だからこそです。こうした場ならもっと違う話をしたいです」

「例えば?」

「お姉様とお義兄様の新婚生活とか」

「ぶばっ」


 あるまじきマナーの悪さでお茶を吹いてしまった。ウツィアは気まずさをそのまま口元を拭う。


「お姉様どうしたの?」

「い、いえ? 新婚生活だなんて言うから驚いたのよ」


 そういえばマゼーニャは恋愛や結婚に関する話が好きだった。結婚前に幼馴染みの恋の話に食いついていたことを思いだす。


「だって気になるもの。どう? こっちと全然違うんでしょう?」


 生活の内容ではなく環境を語って誤魔化そうとウツィアは思った。


「ええ、そうね。うちには川がないけど、シュテインシテにはワスカという川があるの。とても綺麗な水よ。大きな森もあるけど、そこで働く人の為に整備も行き届いていて、住みやすく働きやすい場所だと思うわ」

「川かあ。うちだと隣領地まで行かないとないですもんね」

「ええ」

「で? お義兄様とはどんな?」


 マゼーニャは誤魔化されなかった。


「どんな、って?」

「……」

(気になる)

「普段どんな甘い生活をしてるかって話!」

「甘いって……」

「……」

(お菓子は控えめだな)


 ウェズに質問しなかったマゼーニャは正解だった。


「やっぱり年上の旦那様だけあってお姉様を優雅にエスコートしたり~? 抱き締めたり~! 言葉で愛を示したりしてくださるんでしょう?」

「ええと……」

「……」

(震える……そんなことしてない)


 青褪めるウェズを見ていたのは母チェスタオツェだけだった。馬車から降りてきた時には問題ないと思ったけれど違ったかしらと首を傾げる。

マゼーニャ的には恋バナだよね(笑)。にしてもお菓子控えめって受け取るウェズは恋愛面に関してかなり疎すぎると思います。ここでもちろん妻を愛しているキリリッぐらいすぐ言えればマゼーニャも喜ぶんですがね(笑)。言えないウェズがいいんです(笑)。

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