32話 女装・男装して領地回り
(何故私は女装して、ウツィアは男装して領地回りをすることになっている?)
当日になって気づいた。側近のカツペルには「なにやってんすか。夫婦として回ればいいのに」と言われ、どうしてこうなったか自分でもよく分からないと返し酷い顔をされる。曰く「しょーもな」らしい。
ここまできたら仕方なかった。女装したウェズは覚悟を決めて店に男装したウツィアを迎えに行く。
出てきたウツィアは嬉しそうだった。
(可愛い)
「では行こう」
「はいっ! 今日は僕がエスコートします!」
男装しているからか腕を差し出す。けれど身長差がありすぎてうまくいかない。途端、しょんぼりと肩を落とした。
「……すみません。僕が小さいばっかりに」
「いや」
(可愛い)
何かフォローをと思い、彼女の手をとった。ただ手を繋ぐだけ。
「ウェズ?」
「これで……エスコートしてくれるか?」
途端ぱっとウツィアの表情が明るくなる。
「はいっ!」
(推し優しすぎ一生推す!)
けれど少し歩いてすぐに女装ウェズは恥ずかしさに熱が競り上がった。
(ウツィアが可愛くてつい手を握ってしまったけど、どうなのだろう。可愛いからいいが……こんな急に触れるなんて駄目だろうか。ああ、もういい。ウツィアが可愛いからなんでもいいな)
と一緒に歩くウツィアを見てウェズは色々吹っ切れた。けれど次の瞬間さっと青褪める。
(触れていると心を読まれる?!)
妻の様子を見てもにっこにこで歩くだけで、杞憂だったと胸を撫で下ろした。正体が今ばれると色々ややこしい。
今は二人並んで歩ける嬉しさをただ感じようとウェズは前を向いた。
(ど、どうしよう……推しの嬉しいって気持ちが過剰すぎてみてもいないのに伝わってきちゃう。閉じてても分かるぐらいの嬉しさってこと? そんな嬉しいの? 推し可愛いすぎでしょ!)
ウェズが知られたくないことはウツィアに知られていないけれど、浮かれている現状は把握されていた。
「あの、今日はワイン見に行くんですよね?」
「ああ、そうだな」
事情の詳しいマヤの親族が運営する場所のみ回ることにしたけれど、当然二人の姿が姿なので動揺が走る。
「どうしてお二人して姿を変えてらっしゃるわけ?」
「カツペル様が仰っていただろ」
「覆面調査のつもり?」
「いやそしたらカツペル様はなにも言わないだろうし、そもそも奥様のあの姿はこちら皆知っているだろう」
「じゃあなんで?」
「さあ?」
「でも領主様すっごく美人」
「俺わりと好み」
「てかどう接すれば?」
戸惑いが生まれつつも逞しく領地で商売をする領民はなんだかんだすぐに順応した。見た目こそ動揺するけれど、内容は立派な領地回りだったからだ。
ワイン生産用のぶどうの話から加工の細かい工程、量産の限度など幅広く説明を求められた。仕事という点ではまったく苦なく領地回りは進む。
ワインについての領地回りが終われば二人して食事をした。カツペルがあらかじめ声をかけていたマヤの親族が経営する店でワイン加工場からも近かったので違和感なく店を案内できる。
「僕のお店以外で一緒に食事は初めてですね」
「そうだな」
(一緒に外食、嬉しい)
デートを楽しんでいる恋人同士のような会話と雰囲気に周囲は何も言えなくなった。
食事の後は隣の小売店に入り伝統工芸品を見る。入る店が事情を知っているからこそ出来る話だった。
(飲食だけでじゃなくて物も色んなものがあるのね)
琥珀加工が精密で見入ってしまう。瞳を輝かせて見る妻が可愛いと相変わらず女装していても和むウェズだった。
「気になるのか?」
「あ、はい、可愛いなって」
(はっ! 男性の姿なのにこういうの可愛いって言うのはだめ? ウェズは私の正体知ってるけど周囲からしたらよくない?)
ウツィアの心の葛藤など露知らず、ウェズは店員に購入する旨を伝えていた。
「あ、待って」
ここは男性の姿をしている自分が買って推しにプレゼントするのが一般的なデートのはず、と反論するもウェズは譲らなかった。
「いい。買うからもらってほしい」
目元を緩めて笑う姿にウツィアはときめいた。
(あああああデレた笑顔可愛いいいい!)
品物を包みつつ、事情を知る領民は首を傾げた。
「この夫婦なにしてんだろ?」
「しっ、聞こえるわよ」
本当なにやってんすかね(笑)。ウェズはもう舞い上がってデートな気分だし、ウツィアも浮かれるウェズの気持ちがほぼ強制的にみえちゃったからつられて浮かれてる的な(笑)。マヤの親族は頑張ってくれてると思う。




