30話 ウェズの誕生日 ~温室デート~
二週間後、十一月に入ってすぐがウェズの生まれた日だ。
誕生日会は温室で開かれた。
予備でもう一つテーブルを追加する程たくさん作り、やってきたウェズを驚かせる。
「……随分作ったな」
「ははは、調子に乗っちゃって」
夫御所望のサンドウィッチは勿論のこと、薬草茶にお菓子も用意した。
ランチには充分だろう。お店を臨時休業にしているので、その分時間に余裕があったのもある。
「お茶も何種類かあるので、好きなのたくさん飲んでください」
「ウツィアが淹れるのか」
まるで彼女の店にいる様な錯覚が起きる。互いに女装も男装もしていないだけで、いつもの日常が訪れてウェズには何故だか眩しかった。
「今日は二人きりなので私が淹れます。最初はどれにします? これとかどうでしょう?」
「それで頼む」
(店で見たことないやつだな)
「ふふ」
(新作、味見してもらおっと)
冬用の新作として用意していたものだった。
「ちょっと癖あるかなって思ったんですけど、どうでしょう?」
「確かに少し刺激があるが、飲むと身体があたたかくなるな」
「冬が来てるのであたたかくなるものを選んでみたんです」
この地域の冬は早く来て、長く続く。なるたけ快適に過ごせるよう考えて茶葉を配合した。
「何でも知っているんだな」
「ありがとうございます。あ、折角なんでサンドウィッチも」
リクエスト通りサンドウィッチを何種類も作ってきた。
雰囲気を柔らかくして僅かに口角を上げて食べる姿に、喜んでくれているのだろうかと少し緊張する。次にウェズの「美味しい」の感想を聞いて、ほっと肩を撫で下ろした。
緊張したウツィアの様子には気づかず、一つずつ食べてはウェズは感想を述べる。
(はっ! 品評会になってる?!)
聞けば応えてくれるのをいいことに、ウツィアはウェズが食べる度に感想を聞き出していた。これでは誕生日を祝う色気がどこにもない。
(いけないいけない! ウェズの誕生日なのに、ついお店の新商品選別会になってるわ! それはついで! ついでよ!)
一方、ウェズはたくさん食べられて満足していた。
(誰よりも早くお店の新商品を食べられた)
「これはどれがメニューに」
「え?」
途端、ウェズは自身の失言に気づく。
「いやなんでもない。その……王都や隣領地の店のメニューにでもありそうなぐらい良くできているなと」
「お口にあって良かったです」
嬉しいですと微笑むウツィアに気づかれないよう息を吐いた。
(よし、ばれなかった)
メニューと聞いて、ここまできたらもう訊いてしまおうとウツィアは前のめりになる。
「よければウェズの一番好きなサンドウィッチを教えてください」
「……これとこれだな」
存外迷いはなかった。どれも美味しかったと加えられ夫の気遣いまで感じる。
「ふふ、ありがとうございます」
「……」
(店のメニューに採用されると嬉しい)
互いにいい雰囲気だとほのぼのできた。そのまま庭を散歩して、本日二回目となる乗馬もして、そのまま夕餉も共にすることになった。時間が欲しいとは言ったけれど、どうやら夫は一日時間をウツィアの為に用意したらしい。
(夕餉も考えておけばよかったかしら)
言わずもがな、家令たちはいつもより豪華な料理を用意していたのでウツィアはとても助かった。
二人、温室で星を見ながらの食事となり、少しは色気が出たかもと喜ぶ。理解のある家令たちに後でお礼をしようとも思った。
最後は結局寝室は別だったけれど、これだけ楽しい時間を共有できたならいいだろうと深くは思わず、ベッドに入った時、ふとウツィアに疑問が生まれる。
「私、ウェズに料理するなんて話したことあったっけ?」
* * *
翌日。
「軽食の新商品が決まりました。こちら二つです」
「頂こう」
(もう食べた)
どことなく得意げな女装ウェズに男装ウツィアは気づかなかった。
ウェズは結構墓穴掘ってます(笑)。そしてドヤ顔で新メニュー食べる(@女装して)。なぜ間に女装と男装をいれる必要があるのか…私が好きなだけです。墓穴も女装も男装もいいんだよ!




