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3話 真ん中バースデー

 年を超えて二月、まだ春の気配はない。二人が出会って半年が経とうとしていた。

 出会った頃は外で話していたが、すぐに冬が来て今では温室で会うことになっている。同じテーブル、同じ椅子で距離も変わらずに一緒に過ごしていた。


「今日は星で占ってみましょうか」

「星?」

「産まれた日で占うんです。天体の配置図で色々分かってきますよ」


 ウツィアは様々な占い方を知っていた。異国の占いにも精通していて、今日はこうして星を元に占いをしている。


「あ、でもあまり大きな声では言えないものなので、内緒ですよ?」

「そうなのか?」


 星なんて夜空を見上げればいくらでもある。それと占いを掛け合わせてるだけなのにとウェズは首を傾げた。


「古文書と比べて今は天文学があまり進んでいないんです。たぶん聖女だから知っていたんじゃないでしょうか」


 聖女は精霊王に指名され、祝福を受けて力を得、先の未来まで知ることが可能だという。


「実はこの世界の空は星占い上の空と一致していないんです」

「え?」

「限りなく近い空、だそうです」


 古文書の書き込み曰く。

 そもそも星座というものが大元から違うらしい。古文書には神話の話が出るが、この世界に神というものは存在しない。近いのは精霊王だけれど、それもまた質が違う話だ。


「話が脇道それました。占いましょう」


 ウェズの誕生日は十一月二日。

 酒が好きなことがバレた。占いで嗜好がバレるとは思わなかった。

 自分があまり好きではなく、対人恐怖症の気があると言われ納得する。

 迷うとひたすら悩みすぎる挙句、自己主張が苦手で断れない傾向があると言う。その通りだった。

 けれど相手に対して真摯に長く、情を持って接する為、領民からは好かれるでしょうとウツィアは笑う。

 全体を見られるし、相手によって柔軟に態度も変えられる為、領主であっても騎士の長であってもうまくいくという。

 その際、人と仲を深めるなら食事を一緒にとるといいらしい。

 あまり求めてはいなかったけれど、恋愛・結婚のことも話してくれる。

 予想だにしない場所で運命の出会いがあると言われ、ウツィアのことだと思った。

 かなりのロマンチストで、寂しがり屋、しかも深く愛してる人と結婚したい傾向があるらしい。恋愛から離れているから実感が全くなかった。

 挙げ句手フェチらしい。フェチとは偏愛のことで、ウツィアの手を見ながら確かに手が綺麗なのは好ましいと納得した。

 人並外れた努力ができ、逆境の中で非常に力を発揮できるらしい。戦うのは向いているようだ。


「成程。興味深い」

「ふふ、思った通りです」

「何が?

「感情を表に出すことのないクールなイメージが蠍座ぽいなって。でも中身はとても優しい感じも」

「そうか」


 彼女の占いの前では自分が丸裸にされたかのような錯覚さえ起きる。聖女という人間が存在するのなら、ウツィアのようななんでも見透かす力がある者なのかもしれない。


「君の誕生日はいつだ?」

「私は六月三十日です」


 ウツィアは六月、ウェズは十一月、今はどちらの誕生日でもない丁度真ん中だった。


「惜しかったな」

「え?」

「もっと出会うのが早ければ、君の誕生日を祝えた」

「え」

(わ、すごい……さらっとそんなこと言えるなんて)


 嬉しいことを言ってくれる人だとウツィアの中が少し跳ねる。この頃になると顔の見えない話し相手は随分と話してくれるようになった。


「折角ですし、お互い誕生日祝います?」

「え?」

「丁度二人の誕生日の真ん中ですし」


 祝いたい気持ちが勝った。何に理由をつけても彼女を祝えるならなんでも良いと、ウェズは静かに頷いた。


「是非お願いしたい」

「では少しお時間頂いて、来週にしましょう」

「分かった」



* * *



 楽しみにしていた一週間後はすぐにきた。

 彼女が瞳を閉じている間に、テーブルの上に贈り物を置き、あらかじめ置いてあった贈り物を手に取る。

 ウェズはウツィアから刺繍の入ったハンカチをもらった。繊細な模様が多い手の込んだものだ。


「これを一週間で?」

「実は前もって準備してました」

「え?」

「もし今度遠征があったらお守りにと思って」

「……」

(嬉しい)


 ハンカチを持つ指に力が入る。久しぶりにわいた感情だった。


「戦争なんてないのが一番なんですけどね」

「では早くに終わらせよう」

「ありがとうございます。でも、無理はなさらないで下さいね」


 私の方もとウツィアがテーブルの上に置かれた箱を開ける。そこにはネックレスが入っていた。

 赤褐色を帯びた薄いコニャックカラーが輝いている。向き合ったことのないウツィアは分からないが、ウェズの瞳と同じ色だ。王女から聞いたことがある。この宝石は海を渡った先でしかとれない。


「これ……すごく高価なものでは?」

「そうでもない」


 丁度城に来ていた宝石商が扱っていた中から選んだに過ぎない。時間があるならもっと下調べを念入りにして送るぐらいの気持ちでいた。


「……海を渡った先にある国でとれるものですね」


 とても希少な石なのでは? とウツィアがネックレスを掲げる。宝石商がそんなことを言っていたかもしれない。どちらにしろ彼女に似合いのものが見つかればなんでもよかった。


「あの、お願いしてもいいですか」

「なんだ?」

「つけてくれませんか?」


 ネックレスを、ウツィアの首に。


「はしたないですね」


 苦笑するのが背中だけで分かった。名のある騎士様に頼むことでもないのにとも言う。

 ウェズは立ち上がりゆっくりウツィアの真後ろに進んだ。足音で察した彼女が少し戸惑う。


「あの、すみません」

「いや、私がつけよう」

「……いいんですか?」

「ああ構わない。目を閉じて」


 閉じた気配を見てネックレスを手に取り首にかける。ウツィアの鼻腔を爽やかな香りがくすぐった。


「柑橘、の香り」

「え、ああ……私のか」

「南の……セモツの先の国々でよくとれる果物ですよね」

「そうだ。向こうの商人と縁があって使っている」

「いい匂いです」

「そうか」


 ウェズはこの距離で彼女が香りを纏っていないことに気づいた。男女問わず香りは使うもの。マナーとまではいかないけれど、つけない人間の方が珍しい。


「君はつけないのか」

「んー、しっくりくるのが中々なくて」


 ウツィアに合う香りを考える。穏やかで可愛らしい一方で独特の神秘さを併せ持つような。


「私が贈ろう」

「え?」

「君に合う香りを」

「え、そんな、ネックレスまで頂いてるのに」

「私が贈りたいだけだ」

「で、でも」

「出来た」


 そこでやっとネックレスをつけられた。自分の椅子に戻ると彼女が目を開ける。胸元に光る宝石を見てほうと息を吐いた。


「綺麗です」

「気に入ったか」

「ええ、とても。ありがとうございます」


 ここはとてもあたたかい。ウェズにとって切っても切れない場所になろうとしていた。

ということで、本日の宝石はインペリアルトパーズ(インペリアルという名がつくだけあり、王女キンガの好き宝石の一つです)、香りはイタリアシチリア産マンダリンオレンジでお送りします(この世界にイタリアはありませんが)。

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