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23話 孤児院へ訪問 後編

 外に出ると子供たちがたくさん待ち構えていた。

 用意していた贈り物を手近な子供に渡すと大勢が群がって輪になる。お菓子のようだ。食べたがる子供を年長のしっかりした子供が制して後で食べることになった。


「私は院長と話がある」

「はい、分かりました」

「その、話が終わったら君の元へ、行く」

「はい」

「……」

(断られなくてよかった)


 ウェズの惑う姿から暫し考えて、別行動でもいいと言った自身の発言をウツィアは思い出した。すぐに訂正して「旦那様と一緒だと嬉しい」と言えば眦が下がって雰囲気が和らぐ。渋面だったのが大違いだとふと感じた。

 それも束の間、おねーさんと声を掛けられ目線を下に向けるとあっさり手を取ってウツィアを囲んでくる。子供たちがどんどん増えていった。


「えっと、折角なので子供たちと遊んできます」

「分かった」

「おねーさん、誰?」

「私はウツィア。よろしくね」

「ウェズの奥さん?」


 公爵様を呼び捨てしないのと院長に怒られる子供は口が達者なようだ。


「ウェズとけっこんしたの?」

「ええ、そうよ」


 およめさんだのなんだの色んな言葉が飛び交う。あまり長居して院長との会話ができないのも困ると、ウツィアは軽く言葉をかけてその場を去った。子供たちも一緒だ。


「ウツィアはウェズがすきなの?」

「ええ、そうね」

「ふーん」


 敷地内には遊具もあった。ウェズが寄付してくれたおかげだという。通常孤児院は物品が揃っていないことが多い。ここまで充実しているということは、彼がこの孤児院に目をかけてくれているということだろう。

 遊具で一緒に遊んだり、追いかけっこしたり、身体を動かして子供たちと遊んだ。整った敷地内には小さいけれど畑もあるし、遊具を置いているのに子供がめいっぱい走れる広さもある。 建物自体も子供たちの身なりもしっかりしている。


「旦那様は随分前から寄付をされているのかしら」

「だんなさま? ウェズのこと?」

「ええ」

「なんでだんなさま?」

「ええと」


 貴族の結婚では大概夫となる相手を旦那様と呼ぶことが多い。次いで爵位だろうか。公爵様と呼ぶと他人行儀な気がして旦那様呼びしていたけれど、子供たちからするとこれも疑問らしい。


「あ、ウェズきた」

「ウェズ!」


 ウェズは一人の子供を肩車して、右腕に一人の子供を抱き抱え、左手にもう一人手を繋いで現れた。周囲の子供が肩車をせがみにウェズの元へ集まる。好かれている様子と、いつもと違った穏やかな表情が意外だった。


「子供たちに懐かれたようだな」

「ここの子供たちはとても優しくて良い子なので」

「そうか」

(楽しそうでよかった)


 子供たちに優しく好かれているウェズを見てウツィアは安心した。あれだけ子供を作ることを拒否されているから子供自体が苦手なのかと思っていたけれど、そうでもないらしい。

 それなら後は自分と夫との関係が深まればいいだけだ。


「うつぃあ」

「あ、ごめんなさい」


 話の途中だったことを忘れてしまい、子供に向き直る。


「ウツィアはウェズって呼ばないの?」

「旦那様と呼んでいるわ」

「ふーん……ウェズはだめなの?」

「ええと」


 孤児院では名前で呼び合うのが当たり前だから、夫婦間で旦那様と妻が呼ぶのは納得がいかないらしい。


「私は構わないが」

(期待)

「え?」


 子供たちの前だから気を遣ってくれたのだろうか。でもいきなりウェズブラネイという本名ではなくて愛称のウェズで呼ぶのは気が引ける。


(そういえば、推しも愛称はウェズだったわね)


 ちょっとした発見に一瞬気を抜くと、お腹に子供が突撃して変な呻き声が出た。


「よんでみて!」

「え、今?」

「れんしゅう!」


 確かに練習が必要かもしれない。なんでこんなに緊張するのかも分からないけれど。

 ちらりと様子を窺うと、じっと見つめるウェズの姿があった。興味があるのか否定の雰囲気はない。少しそわそわしてる気さえした。


「……ウェズ」

「ああ」

「ウェズもウツィアよんで!」

「……ウツィア」

「は、はい」


 妙にこそばゆい。こんな名前一つに何を意識しているのだろう。


(でも仲良くならないと! これはチャンス! のはず!)


 そこからは二人、子供たちと遊ぶことができた。いつもより雰囲気が柔らかく感じるのは子供たちが間に入ってくれているからだろうか。


「またね」

「ウツィアまたきてね?」

「すぐきてね?」

「ええ、必ずまた来るわ」

「……」

(可愛い)


 帰る頃にはウツィアはへとへとになっていた。帰りの馬車の中もウェズが穏やかな顔をしていたのが嬉しいけれど、いつ寝てもおかしくない睡魔との戦いが優先されてしまう。


「寝ても構わない」

「ですが……」

「ウツィアの実家の御両親には手紙を出しておこう」

「はい、ありがとうございます」

(まだ名前で呼んでくれてる)


 一緒に行って良かった。たくさんの子供たちの相手は疲れたけれど、それ以上に楽しかったし、夫と距離を縮められたような気がして満足している。


「素敵でした」

「?」

「旦那様……ウェズが子供たちのことを考えてることも、形式的なことしかしない貴族が多い中できちんと会いに行っていることも、とても好感が持てました」

「……そうか」

「……次も、連れて行って下さい」

「え?」

「次も一緒に行きたいです」

「……分かった」

(嬉しい)


 それを最後にウツィアは寝てしまった。

 よかったと安堵しつつ、先程彼女から褒められた言葉を反芻して顔を赤くする。ウェズとしては妻の寝落ちは助かった。

 無防備に眠るウツィアの隣に座り、顔にかかる髪を避ける。今日は一日ウツィアが側で笑ってくれて、もう顔に出さないようにするには限界だった。


「可愛い」


 心の声が出てしまってもウツィアに聞こえる事はなかった。

ウェズ「そわあ」

分かりやすくなってきましたね!(笑) 心の声も出てくるようになりましたし、本当さっさと告っちゃえばいいのにって話。

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