18話 チンピラ二人が逃げた後
正直怖くて一人になりたくなかった。いくら人がよさそうな二人でも剣を向けられ斬られたのは事実だ。どうしても一人になれず、行ってとも言えない。
(この場で奴らを捕まえたい。見た所ただの素人、大した脅威にはならないが領地内の治安の為に今捕獲しておくに越したことはない。またいつウツィアの店に来るとも限らない。でも……)
さっき確かに彼女は待ってと言った。言いかけたのはウェズにも分かるぐらいだ。大怪我はしてないようだけれど気になる。
悩んだ挙句、ウェズは振り返ってウツィアの元へ駆け寄った。
「怪我は?」
「あ、大丈夫、です」
と、ぱっくり斬られた服の中、さらしで潰した胸を見てしまう。目が開く女装ウェズの様子を見てウツィアは手で胸を隠した。
「あ、すみません、えっと」
ウェズは無言でウツィアを抱え上げた。
(お、お姫様抱っこ!)
独特の浮遊感に目を白黒させる。
「あ、あの!」
「黙って」
閉店前の店に入り、ソファにウツィアをゆっくりおろした。開店したばかりの頃、客によく貸し出しをしていた大判のひざ掛けを取り出してウツィアの肩にかけ胸元を隠し、次に手近にあったティーポットでお茶を淹れる。
(慣れてる。ひざ掛けの場所も覚えてたんだ)
ウェズは自分でお茶を淹れることも多く、また日々ウツィアがお茶を淹れる手つきを見てきた為、お茶を用意することは苦ではなかった。
「君ほどうまく淹れられないが、飲んで少し落ち着いてからにしよう」
(心配)
「ありがとうございます」
(推し格好いい)
ゆっくりお茶を飲むウツィアを隣で見てウェズがふっと息を吐いた。
「怪我がなくて良かった」
「助けてくれてありがとうございます」
「いや、最初から君を守れなかった。自分の落ち度だ」
「そんなこと」
(そこまで自分を責めるの?)
ウツィアが男装して働くようになってから、きちんと帰れるか影で見守っていた。側近カツペルの報告を聞いていて油断したところに、いつの間にか男二人がウツィアに迫っていたので気づくのも駆けつけるのも遅かったのが悔しくて仕方ない。
「バレちゃいましたね」
「え?」
「その、僕が男じゃなかったってこと」
「それは別に気にしていない」
(知ってるし)
そう思いつつ、ウツィアを労わるよう「怪我がなくてよかったが、怖かっただろう? そんな思いをさせてしまったことが悔やまれる」と返す。
(推しがイケメンすぎる)
先程の斬られたことを吹っ飛ばす程度に女装したウェズの男前な所作と言動にどぎまぎしてしまう。
それでも、ふとした時に斬られた一瞬の恐怖が降りてくる。
お茶を一杯飲んで少し、ウツィアは勇気を振り絞ってウェズに寄りかかった。
「え?」
「その、ごめんなさい……少しだけ、こうさせてください」
甘えた行動をとったことをウツィアは少し後悔した。見上げた先のウェズが悲しそうに瞳の色を染めたからだ。一度瞳を伏せて再びウツィアを見つめたウェズは彼女の肩に手をかけ自身に引き寄せた。
「守れなくてすまない」
「いいんです。ウェズは私を助けてくれました」
(イケメンすぎる)
あたたかさにほっとする。肩を抱かれている間、ウェズは自分の不出来を責めた。しばらくそのまますごし、ほどなくして「帰ります」とウツィアが囁く。
「分かった。送る」
と言ってひざ掛けで胸元を隠したまま横抱きにされた。さすがに落ち着いてからお姫様抱っこをされると恥ずかしさが割り増しになる。
「あ、歩けますので」
「奥様」
「貴方は……」
店を出てすぐのところに馬車が用意されていた。その側にはウェズの側近カツペルが立つ。どうして彼がここにと思う間もなく、女装したウェズが馬車にウツィアを押し込んだ。当然優しい所作ではあるけれど。
「すまないが、私はここで失礼する……一人でも大丈夫か?」
「はい。もう大丈夫です」
「よかった」
悲痛に微笑む推しに胸が締め付けられる。
馬車の扉が閉まると、途端ウェズは怒りを纏った。
「行け。私は奴らを追う」
「はい」
当然激おこな女装夫ウェズ。着替えのタイミングがずれたので女装したまま助けてくれました。通常の夫として助けてたら早くに本来の夫婦になれてたのにと思いつつ(またそれか)。カツペルがいるあたりで気づければいいんですが襲われたショックでそこまで頭が回らないウツィアです。




