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10話 夫、女装してカフェへ行く

「私が領主の妻だとばれないようにするには全然違う方向に変装しないとだめよ。ここは男性になるのが丁度いいと思わない?」

「なんで?!」


 思わず言葉が崩れてしまったマヤだったが、すぐに落ち着きを取り戻す。目の前の主は名案だと言わんばかりにうきうきしていた。


「大丈夫、声を変える薬だって認識をずらす薬だって私が作っているのよ」

「潜入捜査用で王国の騎士様が使われているものですね」

「そう。効果はお墨付きだもの」


 一理あるけれど、どうなのだろう。けれど下手に見知らぬ場所で商売を始められても身の危険もある。今ウツィアが希望している場所は領地内で、マヤのよく知っている親戚が見守る体制も保障できる。マヤも屋敷内の仕事が済めば見守りに行ける範囲内だし、屋敷から一番近いのも魅力的だ。


「どうかしら?」

「……奥様の意のままに」


 商売の許可を出す時点で領主であるウツィアの夫なら気づくだろうと踏んで、全面的に彼女に賛同する。


「楽しみになってきたわ!」


 戦争によって振り回されていたウツィアを思うと、楽しそうに笑う姿があってよかったとほっとした。



* * *



 二週間後、ウェズブラネイことウェズの元に定期報告が入った。


「奥様は変わらず角の店で店で働いてます。提出書類の通り、飲食及び薬と化粧品の販売をやってますね」

「そうか」


 領地内騎士団の騎士の一人、ウェズの側近であるカツペルが淡々と説明する。


「常連がいるみたいっす。オリヴィア・ノヴァック公爵夫人やマリア・ヴイチック辺境伯夫人が開店記念に来てました。御二人とも大物ですね~。前から懇意にしてたみたいで、お二人は薬もらってるって話が出ました。まあこっちも声変える薬とか買ってますしね。提出書類通り、営業時間は十二時から十六時までですが、短い時間の割に稼いでます」


 王城にいた頃、王女・キンガの斡旋で名のある貴族たちがお忍びでウツィアの元に訪れていた。その延長線だろう。彼女の薬は評判がよく、医者がなかなか治せない病気も快方に向かう者が多い。


「他には」

「薬以外だと書類通り化粧品ですね。あと飲食の方で奥様が一部令嬢の間で話題になってます」

「え?」


 彼女は占いで接客をしていたとはいえ、飲食業で急に評判がよくなる程慣れているとは思えなかった。

 カツペルが続ける。


「可愛い系イケメン王子様が乙女の夢を叶える接客してくれるとかで」

「……」

「男装似合ってるぽいすね~。常連の名のある夫人達にも評判良かったみたいですよ」

「……」


 男性の格好をして仕事をしていることは最初に報告を受け知っていた。周囲に知られない為だろう。

 けど、その姿が人気を博していると? あんな華奢で小さい女性らしい妻が薬を使ってうまいこと変装してたとしても男性の姿が似合うのだろうか。ウェズはウツィアが心配なのと男装への興味から腰を上げた。


「見に行く」

「え?」

「……念の為変装していこう。薬と服を」

「え? 変装していくんです?」

「当然だろう」


 潜入捜査でもないのに、とぼそりとカツペルは囁いた。ウェズにとっては立派な潜入捜査だ。大切な妻が不自由なくやっているか、危険がないか確かめに行かないといけない。


「毎日帰る時間に見に行ってるんですから、それでいいのでは?」


 閉店時間に物陰からウツィアの様子をウェズは見守っていた。店で男装から着替え出て、マヤの用意した馬車に乗り、屋敷への門をくぐるところまで見届けて自分も屋敷に戻る。側近であるカツペルも付き合わされていたが、覗き見るぐらいなら迎えに行けばいいのにと何度か言ったぐらいだ。


「見に行く」

(気になる)


 こうなると梃子てこでも動かないことをカツペルはよく知っていた。ウェズは頑固なところがある。


「はいはい。じゃあいつもの女装セット持ってきます」

「ああ」


 ウイッグにドレス、そして二つの薬を用意する。


「女装もこなれましたよね~」

「からかうな」

「まあ戦争で必要なことでしたし。俺、女装した主人、結構好みっすよ」

「……」

「冗談です。引かないで下さいよ」


 ウツィアの店がオープンして二週間後、夫であるウェズが初めて訪れる。

 ウツィアは男性の格好をし、ウェズは女性の格好をして、なんともちぐはぐな出会いが起きた。

女装して行かなかったらそれなりに早く本来の意味で結ばれるんだろうなあと思いつつ、私だけが楽しい女装男装で物語が進みます(笑)。存分にすれ違って勘違いしてコメディしてくれればいいと思う。


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