NO.0.9/葬式
天候は、あいにくの雨だった。
「空まで泣いてるみたいだよな」
隣にいる幸介が言う。
俺達は二人で黒い衣服を身にまとい、雨の中原っぱに寝転がっていた。
服や身体が濡れるのも構わずに。
「お前は泣かないんだな」
みんな泣いていた。
彼女の家族も、親戚も、友人も、先生も。
堪えきれなかったか、式の最中には時々嗚咽の漏れる音も聞こえた。
誰もが彼女の死を嘆き悲しんだ。
だが、誰よりも近しい位置にいたはずの幸介は、泣かなかった。
「それはお前もだろ」
「・・・・・・・・・・」
ふ、と微笑み、幸介は言う。
「あいつ・・・優しいから」
幸介の呟いたその言葉を聞き、俺は一発で意味がわかってしまった。
「ああ・・・・・」
ああ、夏希は優しいから、きっと、俺達まで泣いたら心配で死んでも死にきれないだろうな。
「化けて出るかも」
俺がふざけてそう言うと、幸介は、確かに、と苦笑を浮かべた。
俺も合わせて声を上げ笑う。
すると、急に笑うのをやめた幸介が、上半身だけを起こし、無表情で俺を見た。
「・・・・・・・・・・」
ただ黙る幸介・・・・、そんな幸介を見て、俺も起き上がり、笑うのをやめて幸介と向き合う。
なんとなく、幸介の言いたい事が分かる気がした。
幸介は、今度は俺から目をそらし、薄暗く広がる空を見ながら言う。
「お前、なんで夏希と二人だけであんなトコにいたんだよ」
幸介は、静かにそう問いかけた。
でも、その問いかけに対して俺は何も答えず、黙って前を向く。
幸介は、今度は問いかけるのではなく、語りかけるように話しかけてきた。
「なあ、律斗」
静かだった。
本当に静かだった。
雨の音も俺には聞こえなかった。
もう何もわからない。あの空に神はいるのだろうか。
だとしても、それは本当に神なのだろうか。
罪を犯そうとした俺に罰を下した運命の管理人か、少女の死に心を痛めるだけのただの傍観者か。
どちらにせよ、俺には関係なかった。
俺にはもう虚しいぐらいに、なんの感情も湧いてこなかったんだ。
「お前、夏希の事好きだったのか?」
ただ、過ぎ去ってゆく。
楽しくて、苦しくて、愛しかった思い出。
残るのは、行き場のない衝動。
目を閉じると浮かぶのは、無邪気な彼女の笑顔。
聞こえるのは、楽しそうな彼女の笑い声。
―――今度卒業記念にみんなでどっか行かない?パーッと一発やろうよー。
お、そうだな・・・。お前は行きたい所どっかあんのか?
―――今日の花火大会すっごく楽しかった!!また三人で来れるといいな・・・。
なに言ってんだよ。また夏になればいくらでも来れんだろ。
―――はっ!?あんたその頭で実山受験するわけ!?しんっじらんない!!
ちょ、おま・・・・・失礼な。俺はやれば出来る子なの!!
―――私、幸介と付き合うことになった。
そ・・・か・・・・、良かったじゃん!!お前みたいな女、きっと幸介くらいじゃないと相手にしてもらえないもんな!!
―――始めまして、律斗くん。同じクラスになった石川夏希でーす。よろしくさん!!
なんだお前・・・、おっもしれー!!おーい!幸介もこっち来いよ。
中学三年の卒業式、確かに石川夏希は死んだのだ。