第1話
「ヒック」
お、しゃっくりだ。久しぶりだなぁ。
「あらぁ? 隼人、もしかして、しゃっくり?」
何が嬉しいのやら、ニヤけた姉が俺の顔を下から覗きこむ。
あ、またしゃっくり来そう……。
「私が隼人のしゃっくりを一発で止めてあげる」
「ゴフッ」
突然の腹部の激痛に涙が飛び出し、俺の視界が急激に暗転していく。おお、速い、速い。もう真っ暗。
さすがのしゃっくりも姉にかかれば一回きりの命というわけだ。
「意識がなけりゃ、しゃっくりもできないでしょ」
姉がその言葉を放ったのか、それとも姉の言葉として俺が脳内で補完したのか、俺が目覚めたときには、それを思い出すことすらままならない最悪の気分だった。
「あら、もう目が覚めたの? じゃあ次のしゃっくりが出る前にもう一回……」
なんで待ち構えているの、お姉ちゃん……。いや、俺の姉ならむしろ当然のこと。ここは「やっぱり」が正解だった。
姉が拳を握りしめ、肘を後ろに引くと、周囲から得体の知れないエネルギーのようなものがジャイロ回転を呈しながら姉の拳に集まり、高密度でまとわりついていく幻覚に見舞われる。
「待って、待ってよ! やめてよ、お姉ちゃん! もうしゃっくりは治ったよ」
「でも念のため」
「ゴフッ」
日が昇らない朝はない。
だが、俺の朝はあまりにも短かった。