あなたとここにいる
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私は『冥府の巫女』のサリア。あの世の者を少しの間だけ現世に呼べる。一年に一回だけ、世界樹の前で踊り、現世の人達の呼びかけを届け、大量のあの世の者を一時的に呼ぶ。現世の者は後悔、未練、懺悔、ただもう一度逢いたい……そんな多くの思いを抱えて儀式に集まる。もし現れなかったら拒否をしているか、生まれ変わっているか。
この儀式は私の寿命を著しく食い尽くしていく。それでも辞めないのは私が貴方に逢いたいから。
私の元へと毎年現れる愛しい人、ダリアン。ダリアンは私の専用護衛騎士だった。名前に似つかわしくない程、ダリアンは美しい女性のような容姿をしていた。長い黒髪を靡かせながら、口調も女性のものだった。いつも質素な格好をしている私を見かねて色々な洋服、アクセサリー、お化粧と美に対して敏感で、いつも私の髪を結ったりしていた。巫女としてでは無く、唯の人として私を扱ってくれた唯一の人。
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「なんなのよ、あの糞爺共!!周りの人間もそうよ!!こんな儀式の為にサリアの寿命を削っているのに!!」
「ダリアン、いいの。だって死んでしまった大切な人に会えるなら、誰だってそれを望むもの」
「サリア、人生は一度きりなのよ?まるで儀式の為に生かされ、サリアの人生を削り取って良い理由にはならないわ!!サリアはもっと欲張りになりなさい!!」
「じゃあ……私が死ぬ時、ダリアンが側にいて。それが私の一番の望み」
「嫌よ、そんなの。貴女を看取るなんてまっぴらよ。……サリア、逃げましょうか……誰も私達を知らない場所まで逃げて、二人で普通の人生を送るのよ。きっと楽しいわよ?」
「……ダリアンがいるならきっと楽しいだろうなあ。でも……無理だよ。神殿はそれを許さない。多くの犠牲を出しても私を追ってくる」
「……何で神殿の威厳の為とやらにサリアが犠牲にならないといけないのよ。女の子なんだから恋の一つや二つくらい良いじゃないの」
私は苦い顔をしているダリアンに微笑む。ダリアンの長い綺麗な黒髪に触れて、優しく梳く。
「私は幸せ者よ。だってダリアンが側にいてくれる。私をちゃんと人としてみてくれる。愛しい人と色々な時を過ごせる。私は今……ちゃんと恋もしている。だから、私は幸せ者なの」
ダリアンは私を大切にしてくれているのは分かる。だけどそれは親友に向ける様な感情でも、それでも私は幸せだった。叶わなくても良かった。貴方が幸せに生きてさえいてくれたら何もいらなかった。
でも、私が死んだら私を偶に思い出して欲しい……私の少しの欲張り。その言葉を私は飲み込んで心に仕舞い込みダリアンに微笑む。
私の言葉のせいで、この時ダリアンが考えている事を気づけなかった。……それは私の罪。
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「……巫女様、昨夜ダリアン殿が神殿長や重役達を手にかけ、死刑にかけられる事に決まりました」
「……え?なんの冗談……嘘でしょう?」
私は顔から血の気が引いていくのが分かる。体が震えて立っていられない。私はそのまま床に座り込む。何が?どうしてダリアンが?何のために?
「巫女様……今からお話しする事は真実です。巫女様の力を強制させていたのは神殿長と重役達でした。巫女様の力は神の理から外れる行為だという声が以前から他の神官達や国から声があがっていました。……ダリアン殿は命を賭して貴女を自由にしたのです」
「なんで……ダリアンに会わせて!!」
私は叫び声をあげて神官に詰め寄る。駄目よ、そんなの許されない。私はダリアンと過ごして緩やかに死ぬ筈だったのに。死ぬべきなのは私なのに。私は神官に涙を流しながらダリアンの処刑場に連れて行ってくれと頼んだ。
神官に連れられ、広場にはボロボロに拷問されたであろうダリアンが木に括り付けられていた。神殿の者を殺したのだから、重罪として火炙りの刑だ。兵士が容赦無くダリアンの足元へと火を焚べる。私は言葉にならない叫びを上げ、人混みを掻き分けて走り寄る。貴方が私より先に死ぬというのなら、私も一緒に……私も一緒に逝くから。
「ダリアン!!私も、私も逝くから!!」
兵士達に抑えられ、私はダリアンに叫ぶ。だが、ダリアンはいつもの笑顔で微笑み私に語りかける。
「馬鹿ねぇ……サリア、貴女はもう自由なのよ……。何処にだって行ける、新しい恋だって出来る……。好きな人と幸せな家庭を築いて……幸せになれる未来が待ってるのよ……だから……先に逝く私を許して頂戴」
「やだ!!嫌だ!!嫌だ!!私の幸せを勝手に決めつけないでよ!!許さないから!!私は絶対に貴方を許さないから!!」
最後にダリアンは困った様に笑い、燃え盛る炎に飲まれていった。私は周囲の目など気にせず、獣のような慟哭を上げていた。
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その後、私は陛下に謁見して私の寿命が尽きるまで冥府の儀式をさせて欲しいと願った。私の思いを汲んでくれた陛下はそれを許可した。
そしてまた貴方に会うために世界樹の前で私は舞う。
貴方への想いが私を許さないでいてくれる。このまま壊れて、そしてまた生まれたい……貴方の側で。
ダリアンはいつも悲しそうにして現れる。待っていて……私も、もうすぐ逝くから。
私は笑い、せめて悲しみにくれて死ぬでは無いと伝える。いつも私は幸せだったと優しい想いを届けて。
するとダリアンが困ったように笑い、私へ手を差し伸べて来た。私も笑ってダリアンの手を取ろうとして、血を吐き倒れる。
『本当……困った子ね。自由を選ばないで、こんな私を想い続けるなんて……本当に馬鹿な子。でも……そんな貴女を私は愛しているわ、サリア。一緒に逝きましょう』
「……ダリアン……あい、してる。ずっと……言い、たかった……」
二人の手が重なり合い、笑顔も贖いもこれからは全部あなたの側で。
あなたの側にいる。