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叱られる


「ちょっと落ち着きなさいよ!」


なぜかはわからないが、香奈の様子がおかしいのは明らかだった。3時間目の最初からだったから、原因は20分休みに耳を澄まして聞いていた柏木君たちの会話だろう。でも、それなら尚更わからない。原因を探ろうと20分休みを思い出す。


 私は香奈の話をしているのなら柏木君が香奈のことをどう思っているのかを知ることができるかもしれないと思い、悪いとは思いながらも柏木君と百山君の会話を盗み聞きしていた。香奈は自分の席から聞こうとしていて完全に集中してしまっていたため、私だけでこっそり柏木君と百山君に背を向けて耳を澄ましていた。「話しかけるなって言われてから昨日まで一度も話してなかったんだよね」と柏木君が言っていたところあたりから聞いていたのだが、わかったのは柏木君は香奈のことをもう幼馴染とは思っていないということと、香奈が仲直りをしたがっているとは全く思っていないということ。まあ、あからさまに嫌われたりしているわけではなさそうだけど、何とも微妙な感じだった。香奈がやってしまったことを思うと完全に嫌われていても仕方ないと思うから最悪ではない。でも、良くもない感じ。


 どうしよう。香奈に伝えていいものか。というか盗み聞きしたことを伝えてもいいのか。伝えるにしてもどう伝えればいいのだろう。うーん……


そんなふうに考えているとチャイムが鳴った。もう、柏木君たちは香奈の話を終えていたというのにずっとその場に立ち尽くしてしまっており、すぐに準備をしなければいけない状態だった。


そうして、自分の席に戻ったのだが……なんでこうなったのだろう。幼馴染と思われていないのは、最初に話しかけたときに『霧嶋さん』と呼ばれたことで承知済みだろうし、何度も逃げられている時点で明らかに避けられているわけで、仲直りしたいという思いが伝わっていないのはむしろ伝わっていて避けられているよりはいいのではないかとさえ思える。


「だって、だっでぇ……もうコータは私と仲直りなんてしたくないんだって……私のこと大嫌いなんだって……」


……うん?途中からしか聞いていないが、そんな感じにとれるような会話だっただろうか。仲直りしたくないというよりは、仲直りするなんて考えられないといった感じだったし、大嫌いというより関心が薄いという感じだったと思う。それはそれでよくはないのだけど大嫌いという感じはしなかった。香奈はあの会話をどう解釈したのだろうか。取り敢えず、すぐに4時間目の授業が始まってしまうため、ここで長話をしている時間はない。


「取り敢えず、柏木君たちの会話は聞いてたけど、嫌われているって感じじゃなかったから泣き止みなさい!」


「え……?」


「そのことは昼休みに話すから、取り敢えず泣き止む!4時間目はちゃんと授業受けなさいよ!」


「あ……は、はい」


香奈はどちらかというと勉強が苦手だ。それなのにあんな風に授業を聞かないでいたら、試験の時に困るだろう。仲直りも大事だが勉強も大事だ。



香奈は4時間目は時折鼻をすすりながらもちゃんと授業を受けていた。そして、昼休み。柏木君は百山君の席に行ってしまうとはいえ、流石に教室で話せる内容ではないので、3,4時間目の間に行った屋上の扉の前へと行き、話し始める。


「まず、どうしてあの会話の内容聴いて、泣くほどのダメージを受けてたわけ?」


「うぅ……だって、百山君が仲直りって言ったらコータが『いやいやいや!』って……。そんなに仲直りしたくないくらい私のこと嫌いになっちゃたんだって……」


 ……。会話の内容を全部聞いていたわけじゃなかったのか……。ずっと自分の席から会話を聞いてたから、幼馴染の声だけは聴きとれる的な超人的な聴力を持っているのかと思ったのだが、そんなことはなかったらしい。そう考えると随分思い込みが入っていたものだと思う。


 まあ、それはいい。柏木君の話題の時はいつも様子が変だったし、それだけ香奈にとって重大なことなんだろう。……でも、だからこそ、このままじゃいけないのではないかと思った。


「実は私、柏木君たちには悪いとは思うけど、柏木君が香奈のことをどう思ってるのかがわかるかもと思って、二人の近くで話を聞いてたの。聞いた感じは、香奈が仲直りをしたがってるんじゃないかっていう百山君の言葉に対して、柏木君がいやいやって言ってた感じだったよ」


「え……ってことは……」


「とりあえず、嫌われてて絶対仲直りなんてしたくないって感じではなかったと思う」


「よ、よかったぁ……」


 安堵の表情を浮かべる香奈。心底ほっとしたという感じだ。……ぐずっているのが治るのはいい。でもそうじゃないでしょう、と思った。


 香奈はいい子だと思う。ちょっと考えなしなところはあるけれど、その分積極的で私を色々なところに連れていってくれる。香奈はそんなつもりはないんだろうけど、色々助けられた。香奈の友達になれて本当によかったと思っている。……だからこそ、間違えていると思うときはちゃんと伝えないといけないとも思う。


「でもさ……香奈。」


「ん?」


「実際にすごく嫌われててもおかしくないってわかってる?」


「え……?」


「詳しいことを全部聞いたわけじゃないけど聞いた限りでは、嫌われてて、もう絶対に仲直りなんてしたくないと思われてても仕方のないことをしちゃったんじゃないの?……さっき、柏木君に嫌われちゃったって泣いてたけど、多分柏木君も……いや、ちゃんとした理由がない分、今の香奈より傷ついたんじゃないかな。……それが、香奈がやったことなんだっていう自覚はある?」


「そ、それは……」


「……香奈は謝ろうと思ってるんだよね?仲直りがしたいって言ってたけど、仲直りがしたいから謝ろうとしてるの?悪いことをしちゃったから謝るんじゃなくて、自分がまた幼馴染と仲良くしたいから謝るんだったら、私は柏木君に失礼だと思う。仲直りするのは、ちゃんと謝って、許してもらってからだと思う。」


嫌われてしまったんだと泣いていた香奈を見て、違和感を覚えた。香奈は自分のしたことをわかっているのだろうかと。謝罪というのは、罪を自覚して、相手に対して申し訳ないという気持ちをもってするものだと思う。泣いている香奈は、自分のやったことを忘れているんじゃないかと思った。自分が今、嫌われたと思い傷ついているということは、同じように相手も傷ついていたであろうという事に目が行っていないような気がした。


 昨日私は、そういうことなら謝れと言ってしまったけど、そう言われたから謝るのなら全く意味がないと思う。これは謝れと言った私が悪かっただろうか。私は、仲直りするならまずちゃんと謝ってからと思っていたのだけど、仲直りするために謝るのは間違っている。謝罪するなら、誠心誠意しなければいけない。謝るときに、仲良くしたいからとか、そういう自分の欲が混ざっていてはいけない。


「今のままなら、謝らないほうがいいよ」


「え……」


「まだ昼休みは30分くらいあるし、しっかり考えたほうがいいと思う。今日は部活の日だし、またその時に話そ」


私たちが所属している奇術部は、部員は先輩が2人いるだけで、その2人も火曜日と金曜日の週に2回ある部活動のうち火曜日にしか顔を出さないし、顧問もほとんど来ないというゆるゆるの部だ。普段は香奈と2人でちゃんと活動しているのだが、今日ばかりはそうはいかなそうだ。

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