新しい日常
チュンチュン・・・・・・・・・
「おはよ、香奈」
「コータ、お、おはよ」
少し寝坊してしまって、いつもより遅めの時間に駅に行くと、電車を待っている香奈を見つけたので声をかける。普段と比べれば遅いけど、この時間でも学校に着くのがギリギリということはない。というか、普段が早いだけでこのくらいの時間のほうが普通だ。
「……今日は、ゆっくりなんだね」
「あはは、寝坊しちゃって」
「寝るの遅かったの?」
「うん。数学の課題出てたの忘れてて、夜に急いでやったから」
「終わった?」
「うん。何とか。そのせいでちょっと眠いけどね。香奈はやった?」
「うん。数学は次ちゃんとしないとまずいから……」
「あー、そう言えば追試組だったね」
「はい……」
あの時は見るからに体調悪そうだったから、仕方ない……というと違うか。まあ、次は体調管理もちゃんとしてほしいものだ。……俺が言うことじゃないけどね。
こうしてまた話すようになったんだし、もうあんなことにはならない、と思う。そこまで得意ってわけでもないけど、俺も教えられるしね。
ちょっと渋い顔をしていた香奈がぱっと顔をあげる。
「あ、電車来たね」
香奈がそう言うので耳を澄ませると、遠くから電車が来る音がする。
……耳良くない?やっぱり、香奈って野性的なところあるよなあ……。走るのも速いし。
だんだんと電車の音が大きくなる中、そんなことを思っていた。
~~~
学校の最寄りの駅に着いて、学校までの道を二人で並んで歩く。
土日にメッセージアプリを使って話したり、さっき電車内で話したりして、昔よりもおとなしくなったというか、ちょっと落ち着いた感じがするなあ、と思う。
昔はずっと振り回されていたけれど、もうそんなこともないんだろう。そう考えると、ちょっと寂しいような気もする。
香奈といろんなことを話しながら歩いて、教室のすぐ近くまで来た。
……あ、これ一緒に入ったらまずいな。体育祭で色々とクラス内で騒がれたりしていたんだった。一緒に教室に来たとなったら、また色々と言われてしまう。俺だけの話題なら土日挟めば恋バナ好きのクラスメイト達もすぐに忘れてくれるだろうけど、香奈が話題の中心となるとそうはいかないだろう。
「あー、俺、ちょっとトイレ行ってくるね」
「うん。わかった」
一緒に教室に入るのはまずい。それなら時間をずらそう、ということで香奈には先に行ってもらう。こうすれば、大丈夫だろう。
さて、ちょっと時間を潰してくるかな。
***
コータがトイレに行くというので私は先に教室に向かって歩き、ドアの前に立つ。
教室に入るのに少し躊躇してしまう。理由は、さっき駅から学校に向かってくる間に何人かのクラスメイトに二人で歩いているところを見られていたから。運動会であんなに話のネタにされていたのに、土日明けてすぐに一緒に登校していたら絶対に何か言われる。
「霧嶋?入らないのか?」
「あ、入るよ。ごめんね」
私がドアの前で立っていたせいで、入れなかったらしく、後ろから声をかけられてしまった。
急いで入ると、教室にいる何人かこちらを見てくる。誰が来たのかを確認してすぐに視線を元に戻す人たちの中で、一部の人はこちらを見ている。まあ、その一部の人というのは、天道さんたちだ。
ニヤニヤという言葉がぴったり合うような視線を感じながら席に座る。
「おはよう」
「おはよ、伊織」
「柏木君と一緒に登校してたって噂になってたよ」
「やっぱり……」
となると今すぐにでも絡んでくるんじゃないか、と思って様子を伺うと、天道さんたちはこちらをちらちらと見ながらも普通に雑談をしているようだった。
「……」
「ん?どうしたの?」
「いや……、体育祭の時あんな感じだったから、いろいろ言われるかなって思ったんだけど……」
「あー……、まあ、みんな体育祭でテンションが高かったんじゃない?」
「そうなのかなあ」
「多分そうだよ」
なんとなく誤魔化されたような感じがする。なんていうか、笑顔が嘘くさい感じ。……もしかして、伊織が何か言ってくれたのだろうか。
「仲直りできてよかったね」
「……うん。……本当に、ありがとう」
いろんな感謝を込めてそう言うと、伊織は少し笑って私の言葉を受け取ってくれた。
それから伊織と今日の授業の話をしていると、ガラッとドアが開く音がする。
誰が入ってきたかの予想はついていたけど、確認するようにそちらに視線を向けると、予想の通りにコータが教室に入ってきた。
そして、コータはクラス内の様子に少し微妙な表情を浮かべた後に、バッグを私の後ろの席において百山君の所へと歩いて行った。……こうしてコータが自分の席じゃなく百山君の方に行くのは2年生になってからずっと変わらないけれど、いまは前までのように胸をチクリと刺されるような感じはしない。
コータは百山君と朝のあいさつを交わした後に何か言われたようで、驚いたような、困ったような表情を浮かべていた。
「かーな」
「ん、何?」
「そうやってずっと柏木君のこと見てたら、またみんなに色々言われるよ」
「えっ」
あきれたように指摘してくるところを見ると、私は無意識にコータのことをじっと見つめていたらしい。指摘されるとなんだか恥ずかしくなって、顔が熱くなるのを感じる。
中学でのことを謝った後、1週間はコータの親しい態度に戸惑ったりした。そして、体育祭の後に二人で話した後は、撫でてくれたり、メッセージアプリで会話したり、一緒に登校したり……こうやって振り返ると、コータのことを更に好きになっているのがわかる。
……コータに私はふさわしくない。でも、この気持ちは大事にしたい。……そんなふうに思う。




