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やり直し

「コータ」


「ん?香奈?」


 後ろからささやかれるように呼ばれて、振り返る。その先にいるのは、声の通りの人物だった。


 教室でまた来週って言ったのに、また会うとは……。


「あの、ちょっと、話があるんだけど……一緒に帰ってもいい?」


「あー、うん。いいよ、全然。道もしばらく一緒だしね」


 ここから帰るとなると、どうしても同じ道になるのにそんなことを聞く必要はあるんだろうか。まあ、断る理由はないので、了承する。


「えっと、話って……あ、話題になっちゃった件はごめんね」


「へ?」


「クラスメイトについ『香奈』って言っちゃってさ……いろいろ言われたでしょ?」


「あーうん。……いや、それは全然大丈夫なんだけど……」


「ほんとごめん」


 これに関しては本当に申し訳ないことをしたと思う。あんな風にネタにされて、悪い気分にならない人はいないだろう。……ただ、俺の予想は外れたらしい。話があるというから、この件かと思ったのだけど、香奈の反応からしてそうでないことはすぐに分かった。……ちょっと残念。


 じゃあ何だろうと思って香奈を見ると、悩むような表情で地面に視線を落としている。


「コータ」


「なに?」


 視線は変わらず、声だけがこちらに向いてくる。


「私たち、さ……。……今の私たちってさ、どういう関係なのかな……?……私って、コータとどう接したらいいのかな……?」


「……」


 どういう関係……?どう接すればいい……?


 思ったより重いというか、重大な質問で思考が一瞬停止する。


 少し黙っていると香奈が上目遣いでこちらを見上げるようにしてきて、反射的に顔を背けてしまう。真剣な表情をしていたからか、わかっていたはずなのに大人っぽくなったな、なんて思ってしまった。


「……あー、どんな関係、か……。……うーん、やっぱり、幼馴染になるんじゃない?」


「……私なんかが、コータの幼馴染でいいの……?」


「どういうこと?」


「……だって、あんなに酷いこと言ったんだよ?コータのこと傷つけて、それなのに、ちゃんと謝ることもできなくて……私には、コータの幼馴染でいる資格はないんじゃないかって……」


 ……そんなことを思ってたのか。


 立ち止まって、香奈を見る。その顔は苦々しい表情をしていて、本気で思い悩んでいるのが伝わってくる。


「なんか……ほんとに変わったよね」


「え?」


「いや、なんていうか……まだ、気にしてたんだって言うか……。昔は、なにかあっても謝ったらそれでおしまいって感じだったから」


 本当に変わった。俺が思っているよりも変わっていた。今回のことをそんなに重くとらえているなんて……いや、重くとらえて当然なのか。3年くらい疎遠になっていたんだから。むしろ、俺の方がおかしかったのかもしれない。


 関わることが増えたこの1週間で、昔に比べてちょっとおとなしく、静かになったかな、なんて思っていた。……でも、あれは、色々考えて悩んでいたからだったんだな。


「……僕は、香奈とまた仲良くできて、こうやってまた一緒に帰れて、嬉しいよ」


 自然とそんなことが口から出ていた。この1週間で俺が感じた、本心だ。


「……」


「一週間前は、ああいったけどさ……、また仲良くしてほしい。昔みたいにもっと気軽に接してほしい。色々あったけどそんなに気を使わないで、香奈がやりたいように接してくれればいいよ」


「……いい、の?」


「うん。香奈とは幼馴染でいたい」


 1週間前の返事をやり直すつもりで、そう言った。すると、1週間前は下を向いて隠すようにしていて、見られなかった泣き顔が目の前にあった。


 それを見て、また、昔感じていたものが戻ってきたような気がした。庇護欲、という感じだろうか。小さい頃は、「香奈ちゃんは僕が守る!」みたいなことを言ったことがある気がする。


 色々あったけど、少し前まではもう話すことはないとまで思っていたけど……こうしてまたやり直すことができていることがとても嬉しく感じる。


「……やっぱり、泣き虫なのは変わってないね」


 昔のように香奈の頭に手を置いて、ぽんぽんと軽くなでる。



 受け入れてくれるような反応だったので、しばらくの間そうしていた。


 もういいかな、なんて思って手を離そうとすると、香奈の頭の上にある俺の手に香奈の手が添えられる。きゅっと握るようにして、俺の手をその場に留まらせようとしてくる。逃げられないほど強く握られているわけじゃない。ただ、もう少しこのままでいてほしいという意志だけを伝えてくる。


 ……やばい。なんか恥ずかしくなってきた。


 そう思ってしまうと、急に顔が熱くなってしまう。しかし、懇願するような香奈の手から、逃げることはできなかった。



 また、しばらく経って、香奈の手が離れる。それと同時に俺の手も香奈の頭から離す。


「……ありがとう」


「えっと……これからも、よろしくね」


「うん!」


 涙で目は潤んで頬はぬれていたけれど、久しぶりに見ることができた香奈の満面の笑顔は、とてもかわいらしかった。



~~~



 それから、歩きながら他愛のない話をした。香奈の部活の話、前回の試験の話、今日の体育祭の話、友達の話。


 話しているといつもの通学路のはずなのに、普段よりも時間が短く感じる。


「香奈はここをあっちだよね」


「うん。……あ、コータ。そう言えば今はもうスマホ持ってるんだよね」


「あー、うん。連絡先交換しようか」


 中2の時はまだスマホを持っておらず、メッセージアプリを使えなかったから、連絡先の交換をしていなかった。


 QRコードを映し出して見せると、香奈がそれを読み込む。そして、すぐにスタンプが送られてきた。かわいらしいというか、なんとなく力の抜けるハムスターのスタンプだった。


「あとで、またメッセージ送ってもいい?」


「うん。もちろん」


「じゃあ、ね」


「うん。またね」








2章はもうちょっとだけ続くんじゃ

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― 新着の感想 ―
[良い点]  一歩ずつ、一歩ずつ。  急がずにゆっくりと関係を深めていけばいい。  善き善き。
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