走ったあと
コータス
口の中が渇いて、吸い込む空気はいつもとは違う味がするような気がする。足も重くて、汗で体操着も重くなっている。
出来るだけ頭の中を空っぽにして走っていたからか、終わった後で色々と気が付いてしまって、疲れがどっと襲ってきた。この感じだと、明日は筋肉痛になるかもしれないな……。
「はーい、2年生の1500走った人は退場してくださーい」
体育祭実行委員会の人が退場を促してくる。足が棒のようになっていて、まったく動きたくないけれど、進行の妨げになってしまうので何とか歩き出す。
順位としては真ん中くらいだった。クラスにはあまり貢献できなかったなあ……。学級委員の田口が2位という好成績を残していたからか、何とも言えない気分だ。
退場口を出て、自分の席がある方向に足を向ける。喉がカラッカラなので、一刻も早く戻って水分補給をしたい。
「お、おつかれさま。コータ」
声がしたほうに顔を向けると、香奈がいた。
……なぜ、わざわざこんなところまで?ここから俺たちのクラスの席までは結構距離があるのに……。
そんなことを疑問に思ったけど、差し出されているスポーツドリンクに目がいく。
「ありがとう。……いいの?」
「うん。喉。乾いたでしょ?」
「ありがと」
香奈の手からペットボトルを受け取って、流し込むように飲む。
「ぷはぁ……生き返ったぁ……。あ、後で香奈にも飲み物渡さなきゃ」
「え?お返しとかなら別に……」
「そうじゃなくて、さっきお母さんに『香奈ちゃんにも渡して』って飲み物預かってたんだよ」
「っ!そう……おばさんが……」
「会った?さっき探してたみたいだったけど」
「うん、会った。ちょっとだけ話したよ」
「そっか」
何を話したんだろう?
そう思って香奈の方を見ると、ぎこちない笑みを浮かべていた。心なしか顔も赤いような気がする。……大丈夫かな?
「……大丈夫?具合悪い?」
本格的に暑くなる時期は外れているから、そこまで熱くはない。天気も曇っているので、熱中症ってことはないと思うのだけど……。
心配なので、香奈の額に人差し指と中指の裏を当てて、体温を確認する。……体温は問題なさそう……?俺も走った後だから、正確かどうかはわからないけど……ひとまず安心だ。
……あ、やっば。
「ごめん!つい……」
「……?……!?」
ばっと手を引くと、香奈は困惑するような反応を見せていた。
しまった。話をしていたらなんとなく昔の感覚になっていた。昔はおでことおでこをくっつけるくらいのことはやっていたような気がするから、まったく同じようにしてしまったというわけではないけれど、十分に失態だ。
「ほんとごめん!」
「いや、大丈夫!ほんとに、全然大丈夫!」
その後も二人で自分たちのクラスの席まで戻ったのだけど、気まずくなってしまい、会話はほとんどなかった。昼に揶揄われたばかりで、すぐに一緒に戻ったりしたらまた何か言われそうなので、香奈には先に行ってもらって、少し遅れて戻る。
「おー、おかえり」
そう言って迎えてくれたのは雅紀だ。
「疲れた……」
「おつかれ。……ところで、お前と霧嶋とのことがクラスのトレンドになってるけど」
「失敗したなあ……」
そんなことを話してから自分の席へと戻ると、勘付かれたようにばっと一部の女子連中がこちらを向く。うげ……。
「かーしわーぎくん」
心底楽しそうに話しかけてきたのは、天道さん。クラスの中心にいるイメージがある人だ。クラスでの席も真ん中あたりだったと思う。
「……何?天道さん」
「えー、わかってるでしょ?昼逃げらたから、その続き」
「そんな詮索してどうするのさ」
「えー、いいじゃん。気になるんだもん」
ちらっと香奈の方を見ると、オロオロとしている。目が合うけれど、その様子は変わらず、どうすればいいのかわからないといった感じだ。……特に関係をばらされたくないという風にも見えないので、言っちゃっていいか。
「ちっちゃいころから仲が良かったってだけだよ。付き合ってるとかじゃない」
「ほんとぉ?仲良くなったのって最近じゃないの?」
「色々あったんだよ」
「じゃあ、幼馴染ってこと?」
「まあ、そんな感じ」
「へぇー、いいなあ……。……幼馴染からの恋人、そして夫婦へと親密な関係が更に深まって……」
「いや、だから違うって。友達って感じだよ。普通に」
「えー……」
そんな感じで、天道さんとその他の恋バナ好きの女子から、色々と探られる時間が終わった。来週には、俺と香奈は幼馴染だという話が浸透してそうだな……。
俺は別に構わないのだけど、香奈の方は大丈夫だろうかと思って見て見ると、いつの間にか香奈の姿がなくなっていた。あと、隣にいたはずの五十嵐さんも。
あれ?いつの間に……。
しばらくして、落ち着いた様子の香奈が帰ってきた。その後は、天道さんたちの質問攻めにも軽く返している様子だったのが確認できた。まあ、大丈夫そうで安心した。よかった、よかった。




