今の関係性
かなかなかなかなかなかなかななななな…………
午前中の2年生の競技が終わり、応援する人もいないので、私と伊織は比較的人気のない隅の方の木陰にいる。私はしゃがむようにして、伊織はその横で木にもたれている。そして、私は思考を巡らせていた。
なんで?本当になんでこうなったの?
目を閉じると浮かんでくるのは「頑張って」と言うコータの笑顔。
……全然わからない。どうしてこうなったんだろう?
私は……コータへの想いを諦めた。……つい、一週間前。その日は一日中泣いていたし、次の日にはずっと長かった髪を切りに行った。それが一週間前。
「……何がどうなってるんだろう」
「私に言われても」
「わけわかんないよぉ……」
つぶやくように言った言葉を伊織に拾われ、また頭を抱える。
謝った後、私に康太が言ったのは、クラスメイトとして、という言葉だった。関係性としては薄い、クラスメイトだ。
赤の他人、知り合い、クラスメイト、友達、……幼馴染。色々と関係を表す言葉と言うのはあるけれど、コータにとってのクラスメイトってそういうものなの?……いや、むしろコータはクラスメイトとの関係は薄いほうだ。今だって、コータが自分から声をかけるのは私のほかは百山君だけ……だと思う。
……話しかけてくれるのは、笑いかけてくれるのは、嬉しい。でも……私にコータと仲良くする資格は、ない。それなのに、コータは私の感情を刺激してくる。また仲良くできたら、私にとって、それ以上に嬉しいことはない。でも、私は距離を置くべきで……。でもでも、コータがまた仲良くしたいって思ってくれるなら……、いや、でも……。
頭の中が、行ったり来たりを繰り返す。
「クラスメイトって、何……?」
「同じクラスの人?」
「そうじゃなくって!」
「いやわかってるよ。……でも、私もあんな感じだとは思ってなかったから……」
伊織には色々と手伝ってもらったし、追試の日には勝手に帰ってしまったので、ちゃんと何があったのかの説明はしている。ついでに、もう諦めるんだということも言った。
「私はどうすれば……」
「うーん……、そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「でも……」
「話せてうれしいんでしょ?」
「……」
そう言われると、少し恥ずかしい。でも、実際その通りなので、うなずく。
「ならいいじゃない。柏木君も無理に話しかけてるわけでもないだろうし」
それも、多分その通りだと思う。あんなに優しく笑顔で話しているのに、無理をしているとは思えない。
あの、昔と変わらない笑顔。ずっと向けられていなかった、昔自分が捨てた笑顔。この一週間で何回見ることができただろう。あの笑顔を見ると、私の顔は赤く、熱くなってしまう。嬉しくて、ずっとこんなふうに過ごせたらと思ってしまう。諦めた気持ちが更に大きくなってしまう。
「今、急に距離置いたりしたら、それこそ前と同じようなことをしてるようなもんじゃない?」
「そうなんだけどぉ……」
この一週間、話しかけられるたび嬉しさが止まらなかった。同時に混乱もあった。もうこれからは、ただのクラスメイトで、話すことがあっても事務的なことだけだろうと思っていた。それなのに実際は、朝会ったときに挨拶をして、軽い雑談をしたり、私について聞かれたりもした。……さっきは何回笑顔を向けてくれたか、とか言ったけど、11回だ。ちゃんと覚えている。
うれしいんだけど、けどぉ……。
~~~
結局、どうすれば、という問いに対する納得できる答えは出ずに、昼休憩の時間になってしまった。
「あ、休憩の時間になったね」
伊織がそう言ってグラウンドの方を確認すると、まだ競技は終わっていなかった。多分、少し遅れているんだろう。
「伊織は、お弁当?教室で食べる?」
「うん。まだやってるみたいだけど、早めに行っちゃおうか」
二人でその場から離れ、話しながら教室に向かう。
……あれ?あれは……。
その途中の教室へ繋がる廊下で、前から来る人影に体が緊張し、少し熱くなる。
「あれ?柏木君だ」
「ど、どうしたんだろうね」
「?」
前から歩いてきているコータの様子は少しおかしい感じがした。伊織はピンと来ていない様子だけど、少し変だ。
「あっ」
「っ……」
コータが私たちに気付いて声をあげたのがかすかに聞こえ、身体がビクッとしてしまう。
すると、コータは少し申し訳なさそうにこちらの方へと歩いてきた。
「お疲れ、香奈。五十嵐さんも」
「あっ、うん。お疲れ様……」
「おつかれ。柏木君はどうしたの?食堂?」
教室から食堂に行くなら、こちら側を歩いているのは遠回りだ。
「いや、そうじゃないんだけど……。香奈、その……ごめん!」
顔の前で手を合わせて、コータが言う。
「え?……な、何が?」
「えっと、なんて言えばいいのかな……」
――ピロン
音が聞こえてきたのは、コータのポケットに入っている携帯からだった。
「あ、ごめん」
そう言ってコータは携帯を確認する。
「あー、ちょっと、俺行かないといけないから……」
「あ、うん」
「ほんと、ごめんね!」
……そういって、コータは小走りでどこかへ行ってしまった。
「何かあったのかな……?」
「なんだろうね……?」
二人で軽く首をかしげて、教室に向かう。教室の前につくと、教室内がやけに騒がしい。
……?どうしたんだろう?
ガラッとドアを開ける。すると、教室中の視線が私に集まる。男子が4人、女子が6人。まだ昼休憩が始まったばかりなのであまりいない。でも、伊織もいるのに、明らかに私に視線が集まっているのがわかる。
「噂をすれば!」
……え?
みんな恋バナ好きですよね。私は他人の幸せを祝福できる人間になりたいです。




