体育祭の始まり
「なんか、毎週イベントがあるよなあ」
「いや普通の人は、先週特にイベントはないんだよ」
数学の追試を終え、次の週になり、もう金曜日である。周りを見ると、全校生徒が体操着姿でグラウンドに出ているという、珍しい状態になっている。……まあ、変な言い方をしてみたけれど、普通に体育祭だ。
天気は曇り。雨の予報はなかったので、熱中症の危険性などを考えれば体育祭日和と言える天気である。
今は椅子を運び出したところで、一年生が椅子を出すのを待っているところだ。
ちょっと前のホームルームで何に出場するかは決まっている。クラス対抗になっていることもあって、盛り上がっている人は結構熱くなっているみたいだった。
「雅紀は安パイセットだったよね」
「100 m走と綱引きを安パイセットって呼ぶなよ」
「いや実際安パイでしょ。俺なんて、1500 m走んないといけないんだから……」
「まじで運無かったよな」
「この一つの事実だけで、今日の楽しさ10 %減になってる気がする」
「まあ頑張りたまえよ」
「はあ……」
まあ、そんなことを言っても仕方ないので、切り替えよう。ただ、時を戻せるならあの時の俺にはチョキを出すように進言したい。
「雅紀は午前中で出る種目終わりだったっけ?」
「おう。午後の長距離走はめちゃくちゃ応援してやるから、優勝してこいよ」
「無茶言わないで」
そんな話をしていると入場の時間になっていたようで、アナウンスが流れる。それに反応して、クラス委員の田口幸哉がクラスメイトに声をかけていた。
俺と雅紀も整列場所に向かう。
こういう入場行進っている?って思うのだけれど……、まあ無しだったら無しで体育祭感がなくてつまらないか。見に来た保護者もあると思っているだろうし。
保護者と言えば、俺の親は来ないらしい。まあ、高校生になってまで来なくても良いと思うから、別にどうってわけでもないけど。
そんなことを考えながら雅紀と歩いていると、ある一点に目が止まる。
「……なんで水筒持ってるの?」
「は?……あれ?」
自分でもびっくり、という反応をする雅紀。……言わなかったら水筒持って入場してたんだろうか。いや、どこかで気づくだろうからそんなことにはならないと思うけど、ちょっと見てみたい。
雅紀が「置いてくるわ」と言って席の方に走って行く。まあ、すぐ来るだろうし待つか。
そう思ってその場で待っているとクラス委員の田口から声をかけられる。
「何やってんだよ、柏木。早く行けよ」
「あ、ごめん。雅紀が間違えて水筒持ってきちゃったから置きに帰ってるんだよ」
「そうなのか。まあ、急げよ」
強めの口調で言ってくるあたり、もうみんな集まっているのかもしれない。すぐに雅紀が戻ってきたので、急いで整列の場所へと向かう。
到着すると、まだ来ていない人もちらほらいるようだった。……まあ、俺と雅紀のせいで人を待たせていたってわけでもなさそうで安心した。
周りを見ていると左後ろに香奈がいた。男女混合で2列になると隣になるのだけど、男女でそれぞれ1列になると香奈は一つ後ろになるらしい。
「おはよ」
「お、おはよう」
「今日は頑張ろうね」
「うん」
以前とは違って、香奈と軽い挨拶はするようになっている。一言二言話すのは……、その時々って感じだ。どのくらいの距離感が正解かわからなくて、割と昔に引っ張られている感じがあるけど、これくらいが楽なのでこれでいいんじゃないかなと思う。
あと、この一週間で、香奈は奇術部に所属しているということを知った。割と不器用で大雑把なことのほうが得意なイメージだったので驚いた。
そんな感じで、みんなが集合するころには、もう3年生から入場行進が始まっていた。
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開会式が終わり席に戻る。最初は100 m走からなので、しょっぱなから雅紀の出番と言うことだ。俺の席は前の方で、雅紀の席は後ろの方なのでそちらを見ると、雅紀はすでに入場口に向かったようでいなかった。と言うか、周りにもあまり人がいない。半分くらいになっている。
なんか、一気に寂しくなったような感じだなあ、なんて思っていたら、すぐに100 m走が始まる。
さて、雅紀は何着かな?足が遅いとかではないけど、運動部には敵わないと思うから、3,4着ってところだろうか。
予想を立てていると、隣の女子の席が並べられているほうが騒がしくなる。次は女子の100 m走だから、移動する人が多いのだろう。目を向けると、香奈と目が合った。
「あ、100 m走なんだ。頑張って」
「うん、頑張る……!あ、ありがとう」
「行くよ、香奈。ごめんね、柏木君」
さきを歩いていた五十嵐さんに香奈が呼ばれる。
「いや、こっちこそごめん。呼び止めちゃって」
香奈と五十嵐さんが少し急いだ様子で行ってしまった。
なんか……身長伸びたな。いや、身長に限らずなんか成長を感じてしまった。普段はあまり見ない体操着だったからというのもあったんだろうな。
そこまで考えて、思考を切り替えるように運動場の方に目を向けると、雅紀が走るまであと1組というところまで来ていた。




