疎遠になっていた幼馴染たち
「……ちゃんと覚えてたんだね」
「いや……百山君に言われて思い出したというか……」
「あー、うん。なんか言ってたよ」
「……」
しばらく、沈黙が流れ、コータは吐き出すように話し出す。
「……最近ずっと調子悪そうだったのは……色々悩んでたってことなのかな?」
「いやっ、あの、体調を崩したのは私の体調管理が甘かったからで、決してコータのせいってわけじゃないからっ……」
百山君に言われた、コータが原因で、と言う話を思い出して、そんなことを口走ってしまう。でも、こんなことを言ったら、コータが罪悪感を覚えてしまうかもしれない。
な、なんて言えばいいんだろう……!なんて言ったら、今自分が言ったことをフォローできるんだろう……!
なんて言えばいいのかわからず、あたふたしていたらコータが先に口を開いた。
「なんと言うか……、変わったね」
「え……?」
また、しばらく静かになる。
「……あの時は、……辛かったよ。一緒にいることは少なくなってたけど、幼馴染だったし、小学生の頃はよく遊んでたし……気軽に話せる相手だと思ってたのに……、なんで、そんなこと言うんだって……!僕が一体何をしたんだって……!」
「っ……」
少し語気が強くなるコータの言葉が、胸に突き刺さる。
「ごめん……なさい……」
その言葉を聞いて、私は自然と頭を下げていた。鼻がツンとして、目に涙が溜まっていくのがわかる。……絶対ダメなのに、私は泣いていい立場じゃないのに、なぜか勝手に涙が溜まっていってしまう。
「……うん。いいよ。その謝罪なら……受け入れられる」
その言葉を聞いても、顔をあげることはできなかった。完全に泣いてしまっていたから。いろんな感情が押し寄せてきて、涙としてあふれてしまっていたから。何とか、止めようとしてもどうにもできない。
「香奈……?」
「は、はいっ」
頭を下げたまま動かない私に、コータは様子を伺うように声をかけてきた。それに反応して、少し顔を下に向けて、泣いているのがばれない様に頭をあげた。
「えっと……、あー……その、これからは……昔のようにとはいかないけどさ、露骨に避けたりっていうのは、しないようにするよ。これからは、普通にクラスメイトとして……それでいい?」
「うん……。……本当にごめんなさい。それと、謝らせてくれて、あり、がとう」
もう一度頭を下げて、そう言う。何とか、普通の声を出そうとしていたのに、最後のほうが震えてしまった。
このままだと、泣いてるのがばれちゃう。
そう思った私はなんとか、この場から離れようと思った。
「私、帰り、……ます」
「あっ、うん」
コータがそう言うのを聞いて、私は後ろを向いて荷物を片手に走り出す。泣いているのがばれない様に、顔を隠すようにして、全力で。
しばらく走って、家につく。息は切れて、顔は涙でぐちゃぐちゃになっていると思う。
鍵を開けて、家の中に入って、そのまま自分の部屋に向かう。そして、荷物を置いて、ベッドに崩れ落ちた。
……結局、自分で思い出すことはできなかった。やっぱり、私はダメだ。
ここ最近はずっと思っていたことを、再確認する。私はダメダメだと。……謝罪をして、コータは受け入れてくれた。……じゃあ、この後はどうしよう。
最初は、また昔みたいに戻れたら、昔よりも仲良くなれたら、なんて思っていた。でも、今は……ダメだと思う。私みたいな女が、コータとまた仲良くなんてしちゃいけない。そう思う。
自分のしたことを思えば当然のことだ。それに、改めての謝罪に至るのも……自力ではできなかった。私に、コータと仲良くする資格はない。
「うっ……ぐすっ……うぅ……」
これが、失恋、なのかな……。一度好きだと思った人への気持ちを諦めるのが、ここまで苦しいなんて知らなかった。自分の意思で、想いを諦めるのがこんなに胸が張り裂けそうになるなんて知らなかった。
高2になるまでは、流されるように、コータとまた仲良くすることはないんだと思っていた。でも漠然と、まだチャンスはあるかも、なんて考えで日々を過ごしていた。
それが、高2になって、同じクラスになって、神様が最後のチャンスをくれたんだ、なんて舞い上がって、伊織に叱られて、謝って、悩んで、次は何とか許してもらえて……。伊織には迷惑をかけちゃったなあ……。
思考は回るのに、胸が苦しくて、ズキズキと痛むような感覚がして、それと一緒に涙があふれる。
「う……ううぅぅぅぁ――」
そうして1日、部屋にいるときは、ずっと泣いてしまっていた。
***
「あっ、うん。……って、ちょっ、そんな走ったら……」
全力で走っていってしまう香奈を見送る。前を見ているのか不安になるような感じだったけど、家も近いので大丈夫……だと思う。
「……泣き虫なのは、変わってないな」
声と、顔を隠そうとする仕草で、なんとなくわかっていたけれど、香奈が立っていたところをよく見てみると、涙が落ちた後が残っていた。泣いていた理由は……許されたことへの安心?なんだろうか。いや、3年も前のことをわざわざ謝ってきたんだ。色々と思うところがあったのかもしれない。
泣き虫は変わっていないけど、それ以外の……内面、と言えばいいのか……、そういうのが変わったと思う。昔とは違った。謝る態度もその後の様子も、自分の過ちについて思い悩む様子も。何というか、心配にもなったけど、純粋に凄いと思った。自分なら、過去の過ちについて、あんな状態になるまで悩めるもんだろうかと思った。悩みの種を作った俺が言うのも変な気がするけど。……昔から頑固な部分もあったから、根っこの部分は変わってないのかな。
「ふぅ……」
そんな香奈の様子を見ていた時、例の一件を思い出してもやもやと……いや、苛々としていたというか、怒っていたんだな……。さっき、あの時の話をしていた時に、自然と口調が強くなってしまって、気づいた。そして、吐き出した怒りは、戻ってこなかった。香奈が真剣に謝っていたこともあるんだろう。昔の話だからと言うのもあるんだろう。謝罪を受け入れて良いと思った。
中2のあの日から凍り付いていた気持ちが、1度目の謝罪から今までで溶かされて、さっきの謝罪でなんとなく動き出したような気がする。胸がすっきりした感覚になる。
3年も経ったんだ。お互い、色々と変わった。成長、したのかもしれない。今の香奈はどんな人なんだろう、と少し思うのは昔からよく知っているからなんだろう。昔のように、とはいかないけれど、クラスメイトとして少しずつ知っていけたらいいなと思った。
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普段と変わらない土日を過ごして、月曜日。今日から6月になる。教室に入ると、まだ人は少なく、雅紀も来ていなかった。
前までは、即雅紀の席の方に行ったのだけど、露骨に避けたりしないと言ったのでそれはしない。
席に座り、携帯をいじる。
カラカラッとゆっくりとドアが開く音がする。誰が入ってきたのかを確認するように目を向けるとそこにいたのは……一瞬誰かと思ったけど、香奈だった。
香奈が俺の前の席に向けて歩き出した時、目が合った。
「おはよう。髪、切ったんだ」
「!?……おっ、はよう……。えっと、うん」
背中のほうまで伸びていた髪が、肩に届かないくらいの長さになっていた。小学生の時から長かったから、髪が短めの香奈はなんか新鮮だった。
1章終了、ですね




