追試
火水木曜日が終わり、ほとんどの教科の答案が返却された。私はどの教科もそこそこ、と言った感じだった。そして、香奈は……意外にも数学以外の教科は平均点くらいの点数をとることができていた。試験勉強中は眠れないときに勉強をしていたらしいから、その成果なのだろう。
そして、今日は金曜日。数学の追試の日である。
「大丈夫そうだね」
「そうだといいんだけど……」
前の試験の時よりも幾分か体調も良さそうだし、問題もちゃんと解けている。緊張して変なことをしない限りは大丈夫だと思う。……多分。
時計を確認すると、昼休みは残り五分になっていた。
「変なことしなかったら大丈夫だって。もう昼休み終わるし教室戻ろ」
「そうだね」
そうして、昼休みが終わり、5,6時間目も終わり、放課後になる。
「じゃあ、頑張ってね。部室で待ってるから」
「うぅ……いってきます……」
「頑張れー」
***
「じゃ、逝ってくるわ」
「なんとか生還してよ」
「無理かもしれん」
「大丈夫でしょ。何とかなるって」
「あー、そう言われたら行ける気がしてきた。余裕だな」
「いやダメそうだな、これ」
そんなふざけた会話をしているけど、結構本気で不安だ。これで失敗したら次回は死ぬほど頑張らなきゃいけなくなる。……こんなこと言ったら、絶対康太に失敗しなくても死ぬ気でやれって言われるな。なんだかんだ真面目な奴だし。
真面目で、優しいやつだ。本当に。
「あ゛―……行きたくねえ……」
「ふぁいとー」
あんまりだらだらしてたら、遅刻してしまう。流石に追試に遅刻しましたって言うのはヤバすぎる。
康太はそのまま帰るとのことなので、教室を出る準備を終えた俺と一緒にドアへと歩く。
「じゃあ、頑張ってね。部室で待ってるから」
「うぅ……いってきます……」
後ろのドアから出ようとした時、ドア側の壁際の席から聞こえてきた声。その声を聴いて康太の方を見ると、少し心配するような、それでいて安心するような表情に見える。……いや、今回はそんな気がしているだけかもしれないけど。でも、今まではそうじゃない。
「じゃ、また来週」というと、「頑張ってね」という言葉が返ってくる。そうして別れて、追試をする教室へと向かう。
霧嶋の体調が悪そうだとクラス内で心配の声が上がっていた時、多分1番心配していたのは康太なんじゃないかと思う。誰がどれくらい心配していたとかは知らないけど、それくらい心配しているように見えた。
ふとした時に心配そうに見ていたし、なんとなく苦しそうにも見えた。謝られたのに許せなかったとか言ってたから、多分、自分のせいかもとか思っているんだろう。
昔、一方的に言いたいことを言って絶交を突き付けてきた人に対して、そんなふうに思えるのは正直理解できない。その状況になったら理解できるのかもしれないけど、少なくとも俺には想像できない。霧嶋のことも全然知らないしな。……でも、その優しさが康太のいいところなんだろうと思う。だからわざわざ「そんな奴のこと気にするなよ」とは言えない。
……でも、友達がそんな奴のせいで心を痛めているのは良い気がしねえなあ……。
そんなことを考えながら、追試をする教室に入って、席に座る。
しばらくして、山本先生が入ってきて、席を指定していく。
赤点をとって、追試を受ける羽目になっているのは15人ほど。1クラスに2人か3人くらいだ。
席順はクラス順の出席番号順で前から並ぶようで、俺の席は霧嶋の後ろの席となった。場所は真ん中の列の一番前の席だ。
「じゃあ、問題配るから、もう喋らないでください」
位置関係がいつもの康太の位置だな、なんて考えている場合ではなかった。集中しないと。
~~~
追試の内容は先生が言っていた通りに中間試験と似通っていた。多分、大丈夫だと思う。最後の問題は解ききれなかったけど、それ以外はなんとか答えを出すことはできた。
周りを見ると、絶望した様子の人はいないようだ。みんな追試ということで危機感を持って勉強したんだろうな。
前を見ると、霧嶋が少し笑って誰かに携帯でメッセージを送っていた。
「はい、お疲れ様。次回は追試にならないようにしましょうね」
先生がそう言って、答案用紙をもって教室から出ていく。後ろでは、追試が終わったことによる喜びの声が上がる。前では、霧嶋が帰る準備をしていた。
俺も帰る準備をする……前に――
「……なあ、霧嶋。最近は体調は大丈夫なのか?」




