席が向かいになった
始業式が終わり、毎年恒例の自己紹介の時間。こうして、自己紹介をすると人気の差というか認識の差というか、拍手の大きさの差がすごい。俺の時はパラパラという感じなのに対し、次の香奈の時は3倍くらいの音量でパチパチと拍手の音がしていた。幼馴染として、釣り合っていないというのを痛感するな……いや、もう幼馴染じゃないか。
そのあとは、クラスメイトの自己紹介と山本先生の改めての自己紹介を聞き、配布書類を配られ、解散となった。
「なー康太。昼飯食いに行かね?」
「あー、うん。いいよ。今日は外で食べる予定だし。」
「おっけ。何食う?」
「うーん、特にこれと言って食べたいものはないけど……」
「じゃあ海鮮丼食いたい」
「オッケー」
解散と言われてすぐ荷物を持った雅紀が俺の席にきて、こんな会話をした。香奈の後ろの席から早く離れたかったため、俺もすぐに荷物の整理をして席を離れる。香奈の周りには何人か人が集まっていて、やっぱり人気者なんだなあと思う。
「お前の前の席、人集まりそうだな」
「ああ、霧嶋さんの席か」
「これからも、あんなに人が来るとしたら災難だなあ」
「その時は雅紀の席の近くに避難する予定だよ」
来なくても避難するけど。
そんなこんな話していると少し古い感じの海鮮丼屋に着く。ぐるっと調理するところを囲うような形のカウンター席に座り、注文をするとすぐに頼んだものが運ばれてきた。
「いやあ、久しぶりに海鮮食べたけどうめえな」
「雅紀のは、サーモンいくら丼だっけ?」
「おう、サーモンしか勝たん」
そんなくだらないことを話しているとガラガラという音とともに驚くべきことが起こった。まあここまで驚いてるのは俺だけだけど。ネギトロ丼がのどに詰まりかけて大変だった。
「いらっしゃーせー」
店員がそういうとガラガラという音を立てた張本人が俺の向かいの席に座る。というかそこしか空いてなかった。かなだ。国名を言っているわけではなく。香奈がこの海鮮丼屋にやってきた。正確には香奈とその友達らしき人物の二人が。しかも、香奈がちらちらとこっちを見ている。え、こわ……。どういうこと?あなたの後ろで私海鮮丼屋に行くって話してましたよね?まあ、普通に聞いてなかったのだろうが……それにしても運が悪い。
「なあ、あれって霧嶋だよな」
「あーそうだね。霧嶋さんだね」
「なんか意外だな」
「何が?」
「霧嶋みたいな女子ってこういう店来るイメージなくね?おしゃれなカフェとか行ってパンケーキとか食べてるイメージだわ」
「あ―確かに。昼食にパンケーキを食べるかどうかはわからないけど、こういう感じの海鮮丼屋に来るイメージはないかな」
うーん、なんか、私がこの店に来たことをばらしたら殺すとか言われないだろうか。それは冗談にしても、正直あんまりこの空間に居たくない。本当は味わって食べたいんだけど……
「なんか居心地悪いし、早いとこ食べようか」
「居心地悪い?ただのクラスメイトじゃんか」
「いやまあそうなんだけど……」
「いや、確かに『この店に私がきたことをばらしたら……』とか言われそうか?」
変なところで意見があって何よりだ。というわけで俺たちはさっさと食事を済ませ、店を後にした。俺たちが店を出るまで香奈はずっと俺たちの方をちらちらと見ていた。
「この後どうする?」
「うーん、どうすっか……あ、本屋行こうぜ。まだラノベの新刊で買ってないやつあんだよ」
「じゃあ、おすすめの本でも教えてもらおうかな」
「おー、お安い御用だ。康太オタク化計画は着々と進んでるぜ」
「面白い本を勧めてくれるからいいんだけど、そう言われるとなんか抗いたくなるよね」
「そういうなよ。まあ、康太はもうほとんど沼にハマってるからいいとして」
「確かに、ハマってる気がする……」
「さっき、霧嶋めっちゃこっち見てきてなかった?」
「……見てたね」
「さっきは冗談だったけど、マジで明日学校で「昨日私たちがあの店にいたことをばらしたらただじゃ置かない」とか言われそうな気がしてきた」
「ははは、流石に、そんなことは……、ないんじゃ、ないかな……?」
「ありそうじゃんか!いやいや怖えよ、新学期早々あんなザ・一軍みたいなやつに目付けられたくないんだけど」
「まあ、大丈夫でしょ……多分」
うん。雅紀は大丈夫だと思う。やばいのは俺だ。一生話しかけるなとまで言われるほど嫌われているのに、席が後ろになったり同じ店に入ったりと色々と関わり過ぎている。言ってて悲しくなってきたな……。なんでこんなに怯えにゃならんのか。はあ……。明日からの学校生活……憂鬱だ……。
「まあ、気にしてもしょうがないか。本屋行こうぜ」
「そうだね。気にしてもしょうがない」
そうだ。このことはもう考えないようにしよう。香奈は、もう幼馴染じゃない。ただのクラスメイトだ。気にしてもしょうがない。