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中学校

 ホームルームが終わったので、私と香奈は教室を出て駅に向けて歩く。


「で、どこ行くの?」


「えっと……、行ってた中学校なんだけど」


「ああ、そうなんだ」


「うん。だから、家も近いしついてきてくれなくて大丈夫――」


「迷惑じゃないなら行く。……って言うか、私は今日はちゃんと寝て、明日以降にしたほうがいいと思うんだけど」


「……今日行く」


「それなら心配だからついてく」


 そう返すと、香奈は微妙な顔をして考え込むように地面に目を向けてしまう。その表情は悩んでいるようにも、何かにおびえているようにも見える。


 笑顔が見たい。ふと、そう思った。香奈は笑顔が似合う。整った顔をしているけど、今のような表情では寂しく感じる。


「そう言えば、化学の試験、難しかったね」


「うっ」


 普通の、よくある試験後の会話のつもりで出した話題だったのだけど、香奈は唸り声をあげる。1年の時は「ね!全然解けなかったー」なんて言いながら笑っていたので、なんとなくそんな反応があるものと思っていたのだけど……。


「ほんとに赤点かも……」


「もう、次回頑張るしかないね」


「数学もヤバかった……」


「数学は追試もあるから、そこで頑張れば大丈夫だよ!」


 「追試やだあ……」と、さらに落ち込んだ様子を見て、失敗したなあ、と思う。これじゃあ、追い打ちをかけてるみたいだ。


「その時は、勉強付き合うから」


「……うん」


 任せなさい、という気持ちを込めて笑いながら言うと、香奈も少し笑いながらそう答えた。……この様子だと、ほんとに自信ないんだなあ……。


 その後もなんだかんだと試験の話や部活の話などの他愛のない会話を続けて、香奈の自宅の最寄り駅まで電車に揺られた。


~~~


「結構新しいね」


「うん。まだできて十年経ってなかったと思う。」


 目的地の香奈が通っていた中学校に着く。柵の外から校舎内をよく見ると授業を受ける中学生の姿があり、校庭を見ると体育のソフトボールの授業が行われていた。


「あっち行っていい?」


「うん。もちろん」


 重い足を何とか動かすようにゆっくりと歩いて行く香奈について行く。


 校門のほうまで周り、そのまま止まらずに中学校の敷地内に足を向ける。


 ……


「ちょっ、ちょちょ、ちょっと待って!」


「え?」


「え?じゃなくて、許可もらってるの?そのまま入ったら不審者だよ!まだ、授業中だし!」


「あっ、そっか……」


 そっかって……寝不足はここまで人をダメにするか!


「……じゃあ、あっち行こうかな……」


「……うん」


 また、とぼとぼと中学校の外周を歩きだす。


 少し歩いて立ち止まる。そこは体育館裏が見えるところだった。歩道と柵の間に木が植えられているので普通に歩いていても何とも思わないのだけど、意識して目を向けていると普段はあまり足を踏み入れられていない場所の緊張感のようなものがあるような気がする。耳を澄ますとボールの音とキュッキュという体育館履きの音が聞こえてくる。バレーボールかなあ……?なんて思っていると、その音に負けそうなくらい小さな声で香奈が話し出した。


「あそこ……なんだよね」


 何があそこなのか、なんてことは聞かずともわかった。


「あそこに呼び出して、それで……」


 それで、それで……と言う香奈の様子を伺っていると、目に見えて顔色が青白くなっていることに気付く。そして、不自然に香奈の身体が揺れる。


「――あぶなっ」


 倒れる、と思って手を出したが、覚悟したほどの重みは伝わってこない。私が支えるより先に香奈が自分で持ちこたえたらしい。


「あっ、ごめん。大丈夫」


 その言葉に信憑性は全くない。香奈の頬に手を当てると、自分の熱が奪われていくのを感じる。


「あ、あの……伊織?――っとと」


 急に頬を触ったからか、香奈は戸惑いの声をあげる。そして、まだ足元がおぼつかないようで、またバランスを崩す。


「……もう今日は帰って寝なさい」


「えっ、いや、ちょっと休めば大丈夫だよ」


「ダメ。もうフラフラだし、まだどこか行きたいなら今日は休んで明日以降にしなさい」


「いやっ、……はい」


「じゃあ、ちょっと休もう」


「うん……」


 自分でもちょっとまずいと思ったのか、観念したように返事をしてくる。


 すぐ近くにあったベンチに座ってもらって当たりを見まわすと、20 mくらい先に自動販売機があった。


「ちょっと待ってて」


「えっ、うん」


 小走りで自動販売機に向かって、スポーツドリンクとお茶を買ってすぐに戻る。


「はい、これ飲んで」


「あ、ありがとう」


 コクリ、コクリと渡したスポーツドリンクを飲むと、少しだけでも座って調子が良くなったのか、少し顔の色が戻っていた。


「……何か、思い出せた?」


「……」


 小さく横に首が振られる。


「そっか……」



 その後、10分ほど休んでから帰った。残念ながら昔のことについて思い出すことはできなかったみたいだけど、あれ以上は本当に倒れそうだったから、無理やりにでも帰らせたのは間違ってない……と思う。しっかりと睡眠をとって、明日には元気になってくれるといいのだけど……大丈夫だろうか……。

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