試験後
試験最終日の最後の試験となる化学もあと1分もないうちに終わりを迎える。最後の大問が特に難しくて正解している気がしないけど、ギリギリ解き終わったので見直しをする。
――キーンコーンカーンコーン
「はーい、終わりでーす。ペンを置いて、後ろの人は答えを集めてきて下さーい」
監督の女性の先生がそう言うと、周りでは「終わったあ!」とか「解放された―!」なんて声が聞こえてくる。俺は一番後ろの席なので答案を集めなきゃいけない。と言ってもどの教科もそうなので今更何というわけでもないけれど。
「ありがとう……」
「ああ……うん」
前の席……香奈の答案を回収すると、感謝の言葉を言われた。……何というか……、気まずい。どう接すればいいのかがわからない。普通のクラスメイトと同じように接しているつもりだけど、そうできているかどうかもわからない。凄く不愛想な返答をしてしまっている気もする。……まあ、いいか。
その香奈の方も普通とは違う様子で、なんだか体調が日に日に悪そうになっている気がする。試験前に寝不足になったりというのはよくある話だけど、そういうレベルじゃないくらい。さっきの声も、少しかすれていたと思う。……やっぱり、俺に謝ってきた件が関係しているのだろうか。
ゴールデンウィークに謝ってきた日の前から情緒不安定な様子を目にしてきたけど、あの日から香奈の調子がよさそうな日は一度も見ていない……、と思う。心配したクラスメイトに声をかけられてるくらいだ。
……香奈の不調は俺のせいだろうか。……いや、だからと言って俺に何ができるわけでもない。あんな謝罪であの中学生の時の出来事を許す気にはなれない。
そんなことを考えていると、胸の奥がもやっとするのを感じる。
もやっとするような熱くなるような、そんな感覚を覚えながら、先生が「お疲れ様でした」というのを聞いたところで、俺は席を立ち雅紀の席へと向かう。するとそこには、机に突っ伏した雅紀がいた。
「どうだった?」
「終わった……」
「難しかったね。特に最後の……」
「いや、俺最後まで行かなかった」
「あー」
まあ、それまでがちゃんと解けてれば問題ない。……多分。
「ま、過ぎたことを嘆いてもしょうがねえし、忘れるわ」
「まあ、そうだね。テスト返しまではいったん忘れよう」
そう言うとまた雅紀は頭を抱えて、テスト返されないならいくらでもやっていいなんて言いだす。まあ、気持ちはわからんでもないけど。
「あー……辛え……。あっ、康太はこの後どうする?飯は?」
「なんかどっかで食べる。今日家に親いないし」
「何食う?」
「うーん……どうするかあ……」
「飯食ったら遊ぼうぜ」
「まじ?すごい眠いんだけど」
「明日休みなんだしいいじゃんか」
まあ、いいか。そういうことなら、もう明日は全力で寝倒すことにしよう。
***
「大丈夫?……昨日も寝れてないの?」
「……大丈夫」
見るからに顔色の悪い親友に声をかけると、その声だけで嘘だとわかる返答が帰ってきた。
「試験終わったし、今日は帰ったらすぐに寝なよ」
当然、試験前にも寝たほうがいいとは言ってきた。でも、いざベッドに入ると色々と考え込んでしまい寝られないんだとか。だから、いっそ寝ないで何とか勉強しようとしていたらしいのだけど……もう無理にでも寝ないと本格的に体調を崩してしまいそうな様子だ。
「いや、今日は行くところがあるの」
「え?」
何を無茶なことを言っているんだこの子は。そんなげっそりした顔でどこに行くというんだ。
そんなことを思って声をあげたのだけど、香奈は真剣な顔で続ける。
「行かなきゃいけないの」
「えぇ……。…………なら、私も行く」
「えっ、いや、大丈夫だよ、一人で」
「どこに行くのかは知らないけど、そんな様子なのに一人で行かせられないよ。それとも、迷惑?」
「そういうわけじゃないけど……」
「なら行く」
この様子だと多分、例の一件に関係することなんだろう。悩みの原因が取り除けるかもしれないのなら、どこへでも行ったほうがいいのだろうけど、今すぐにでも倒れそうな気がして気軽にいってらっしゃいとは思えなかった。
目的地はわからないけど、これで悩みが晴れて、柏木君にもちゃんと謝れたら一番いい。そうなることを願って私はホームルームが終わり次第、すぐに学校を出られるよう準備をした。
席順は教卓から見て左奥から出席番号1番から並べている配置になっています。生徒側から見ると右後ろから前に並ぶ感じです。