謝罪後
「私、康太に……思っていたよりももっとひどいことしてたみたいで……」
「?……どういうこと?」
それだけ言われてもわからないと言った風に、伊織がさらに聞いてくる。
「……3日前の夜にーー」
それから、謝ったこととそのあと康太に言われたことについて話した。
「……」
話し終えても真剣な表情のまま口を開かない伊織を見て、不安な気持ちが湧き上がってくる。
康太に「自分が言ったこと、覚えてないの?」と言われたことから、あの日実際に私が言ったことが私が思っていたよりもひどいことだったということはわかる。でも、あの日のことを思い出そうとしても全く思い出せない。記憶をさかのぼっても、康太が自分を避けていることに気付いて辛かったことや、あの日よりも前の思い出しか浮かんでこない。
そんな自分が嫌になる。
伊織もそんな奴が友達だなんて嫌なんじゃないか。もう今までみたいに接してくれなくなっちゃうんじゃないか。そんな不安が胸の中で大きくなっていく。
伊織と友達じゃなくなっちゃうなんて、嫌だ。伊織は親友で、他にも友達はいるけど康太のことみたいな相談ができるのは伊織だけだ。特に最近はずっと伊織と一緒にいた。悩んでいる時は一緒に悩んでくれて、間違っている時は注意してくれる。そんな親友を失いたくない。
でも、幼馴染に対して酷いことを言って、それを思い出すことすらもできないような奴が、伊織の友達でいいのか、とも思う。
康太のこともそうだ。
ちゃんと謝って許してもらえたらまた仲良くできたらいいな、なんて思っていたけれど、そんなことを望む資格は自分にはないと思う。
「……なんて顔してんの」
「え……?」
「今ひっどい顔してたよ。思い出せないなら、何とかして思い出すしかないでしょ?」
「うん……」
「むぅ……昔のことを思い出す方法かあ……」
そう言って伊織は口元に手を添えて考え始める。
「うーん……って何で泣いてんの⁈」
「えっ……」
指摘されて頬に手をやると涙で濡れていた。
「何でだろ……?」
「だ、大丈夫?」
「うん……」
「あれ?あっ、次教室移動か!」
周りを見ると教室内の人数がかなり減っていた。
「急がないと!」
「あっ、そうだね」
「それと……これ、貸すから携帯充電して」
わたしの机の上にモバイルバッテリーを置かれる。
「ありがとう……」
モバイルバッテリーに画面が暗い携帯を繋ぐ。そして、伊織と同じように筆箱と教科書、ノートをカバンから出そうとして……。
「あれ?」
「うん?」
「ノート忘れた……」
「あーまあ、携帯の充電忘れるくらいだしね……。えっと……ほい、ルーズリーフあるからコレ使って」
そう言って伊織は2枚のルーズリーフを渡してくれる。……本当に何から何まで、頼ってばっかりだ。
ほんと、わたしって駄目だな……。
「ほら、早く行こう」
「うん。……ごめんね」
「何が?」
「何もかも頼ってばっかりで……助けてもらってばっかりだから」
「何言ってんの。友達なんだから、困ってたらそりゃ手を貸すよ。私も何かあったら香奈を頼るしね」
「うん……ごめん。ありがとう」