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謝罪

 3日前、お母さんに中学の時のことを話した。お母さんには「そんなことが……」と言われた後に、叱られた。謝りたいのだけど逃げられてしまい、話す機会がないということを言うと、そんなの自分で何とかしなさいと言われてしまった。


 その後の2日間、どこかで会えないかと思い、近所をずっと徘徊していた。


 今日出かけようとした時に、お母さんがコータは用事があって6時くらいに帰ってくるらしいということを教えてくれた。そして、5時前くらいからずっと柏木家の前で康太の帰りを待っていた。


 そして、8時前くらいになって、コータは帰ってきた。


「こ、コータ!」


 コータは、嫌なことが起こったというような反応をする。その様子を見るだけで、心が痛い。


「な、何、かな?」


 昔のように香奈と呼んでくれているのか、それともただ単に「何かな?」と言われただけなのだろうか。……いや、そんなことを考えている場合じゃない。


「中学の時、酷いこと言ってごめんなさい!話しかけないでとか言って本当にごめんなさい!」


 全力で頭を下げる。謝罪の意が伝わるように。しばらくの間沈黙が流れ、その後コータの声が聞こえてきた。


「……香奈」


 今度は、確実に名前を呼んでくれた。そんな場合ではないのだけど、喜びの感情があふれてくる。名前を呼ばれたことに反応して、私は顔を上げた。


***


「な、何、かな?」


 急に声をかけられたことで言葉に詰まってしまう。コミュニケーション能力の低さがこういう時に出るな……。まさか、雅紀の言っていたように仲直りがしたいと言いに来たのか?それとも、全く別の用件で殺しに来たのか?それは冗談にしても、俺の家の前で待っていないといけないほどの用事があるのか?


 そんなことを考えていたら、香奈がすごい勢いで頭を下げた。


「中学の時、酷いこと言ってごめんなさい!話しかけないでとか言って本当にごめんなさい!」


 まさかの謝罪。そういえば、さっき香奈に康太と呼ばれたな……。


 酷いこと言って、話しかけないでとか言ってごめんなさい、か……。昔を思い出してみても、香奈にごめんなさいという言葉だけをぶつけられたのは初めてな気がする。大体そのあとに要求を言ってくるからだ。それだけ、本気で謝っているということなんだろう。……でも、怒っていることと違うことを謝られたみたいなそんな気分だ。間違ってはいないけど、ズレている。


「……香奈」


 香奈は顔を上げた。その顔は、昔はよく見た喜びの表情をしている。


「……香奈は、自分が言ったこと、覚えてないの?」


「え……?」


「俺は、何を言われたか一字一句間違えずに言えるくらいには覚えてる。……なんで今更謝る気になったのかは知らないけど、その謝罪を受けるのは無理だよ」


 そう言うと、香奈は見慣れない、絶望したかのような顔をしている。そんな顔をされると心が痛むのだけど……。まあ、だからと言って許す気にはなれない。昔はよく一緒に遊んだりしていた仲だし、ちゃんと謝られたら許そうと思うかもしれないけれど、今の謝罪は俺がされたことと違うことを謝られたようなものだ。


「じゃあ」


 完全に固まっている香奈にそう言って、俺は家へと足を進めた。

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