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自覚する

少しの間、放心状態だった。……ショックだった。今回のことは、伊織の後押しがなければ私は何もできなかったと思う。しっかり考えたほうがいいと伊織は言っていた。考える……考える……


(実際にすごく嫌われててもおかしくないってわかってる?)

……わかってる。

「話しかけないで」なんて言ったら嫌われていても仕方がないことくらいわかる。


(……さっき、柏木君に嫌われちゃったって泣いてたけど、多分柏木君も……いや、ちゃんとした理由がない分、今の香奈より傷ついたんじゃないかな。……それが、香奈がやったことなんだっていう自覚はある?)


 その自覚は……なかった。


 頭を思いっきり殴られたような気がした。3年前に私が酷いことを言ってコータと話しづらくなっちゃって、それで今でもコータに避けられている。そういう認識しかなかった。自分がコータにやってしまったことは「話しかけないで」と言ってしまったことではなく、そう言ったことでコータを傷つけてしまったということなんだと、言われてはじめて気づいた。それが自分のしてしまったことなんだということを、伊織に言われるまで全く自覚していなかった。


(仲直りがしたいって言ってたけど、仲直りがしたいから謝ろうとしてるの?悪いことをしたから謝るんじゃなくて、自分がまた幼馴染と仲良くしたいから謝るんだったら、私は柏木君に失礼だと思う。仲直りするのは、ちゃんと謝って、許してもらってからだと思う。)


 明確に、「仲直りがしたいから謝ろう!」と思っていたわけじゃない。だけど、さっきまでの自分は、謝る一番の理由が「仲直りをしたいから」だった。それが失礼だと言われると、そうだと思う。コータと話せなくなってしまっただとか、コータとまた仲良くしたいだとかより考えるべきことがある。私はコータを傷つけてしまった。だから、そのことに対して誠心誠意謝罪しなければいけない。言われれば当然のことなのに、全くわかっていなかった。


3時間目に思っていたことを思い出す。


(やっぱりコータは私のことが嫌いになっちゃったんだ。)


(ああ、もう……コータと話すことはできないのかな……)


(お願いだから、私にもう一度チャンスをください。)


 今考えると、なんて自分勝手なんだろう。いきなり「話しかけるな」なんて言われて、コータはどれだけ傷ついただろう。もし自分がコータに「話しかけるな」と言われたらどれくらい辛いだろうか。自分がコータを拒絶して、傷つけておいて、それなのにコータとまた楽しく話したいだなんて自分勝手にも程がある。自分から拒絶したのにもう一度チャンスをなんて、何を馬鹿なことを言ってるんだって話だ。泣いていたことも、今思うと私には泣くことも許されないのではないかと思えてくる。


 仲直りして、また昔みたいに仲良くしたい。拒絶して、話すことがなくなった後に自覚した、好きという気持ちも変わってない。でもそれ以上に、謝らなければいけない。誠心誠意謝りたい。


 そのあとに、もう仲良くできないと言われるのなら、それはもう、受け入れるしかないのだと思う。完全に自業自得なのだから。


 伊織に言われなかったら気づけなかったと思う。ずっと自分のことばかり考えていたことに。



いかに自分勝手な考えをしていたのかを自覚して、少しすっきりしたような、落ち着いたような気分だった。5,6時間目はしっかりと授業を聴いて、放課後になる。……3時間目は何の授業をしていたんだろう。全く記憶にない。


「香奈、行こう」


「あ、うん」


部活動は教室を使ってやっているので、その教室まで二人でゆっくりと歩いていく。



 ゆっくりと歩いてきたのだが、まだ教室には何人か人が残っており、その人たちがいなくなるまで待つ。昼休みに話したことの内容もあり、その間私たちは一言も会話をしなかった。



教室から人がいなくなり、二人きりになる。


「伊織」


「うん?」


「ありがとう」


「……」


「伊織に言われなかったら、気づけなかった。私、自分勝手なことばっかり考えて、全然コータのことを考えてなかったって。コータを傷つけたってこと、全然わかってなかった。仲直りしたいとか、そんなこと考えてないで、誠心誠意謝らないいけないって、当たり前のことなのに、気づいてなかった。……ちゃんとコータに謝る。まずはそこからだよね」


 そう言って伊織の表情を伺うと、少し嬉しそうな顔をしていた。


「……そう言うことなら、一緒に頑張ろう。まずはちゃんと謝るところから。……ちゃんと謝って、その後のことはまたその時に考えよう」


 伊織はそう言ってくれた。もし伊織にやっぱりもう協力できないと言われてしまうんじゃないかと思ったりしたけど、そう言ってくれて、とても安心した。一緒に頑張ろうと言ってくれるのが嬉しくて涙が出てくる。


「うっ、うぅ……」


「ちょっと、なんで泣くの」


「ありがとう、本当に、ありがとう」


「ううん、頑張れ」



 そこからしばらく泣いていたと思う。少し落ち着いたのを確認したのか伊織が話し始める。


「メッセージでも言ったけどさ、やっぱり親に協力してもらったらどうかな。親に事情を説明するのも大変だとは思うけど……今のままだとなかなか話ができる機会もなさそうだから」


「うん。お母さんに全部話してそれでコータのお母さんにも話す機会を作ってもらえないか聞いてみる。コータに直接行こうとしても逃げられちゃうし……」


「そうだね。ちゃんといつ話すって決めれば香奈も話しやすいだろうし」


 そうして、これからどうするかを話し、何とかゴールデンウィーク中に話ができるように頑張ろうということになった。そのあとに少しだけ部活動をしてから、家に帰った。

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