表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第5話 猫のみるくと泥棒猫2

「委員長って誰よ」


「それより、さっきの質問の答えだけど」


「誰にゃ」


「美來は体育祭実行委員に入らな──────」


「──────誰なのよ」


「グハッ!!」


 今日も今日とて荒れ狂う、103号室。委員長と話し合って美來みくるを体育祭実行委員に誘うと決めた放課後、俺は美來みくるに早速、猫パンチを食らっていた。

 俺は委員長に言われた体育祭実行委員について美來みくるに話そうとしていたのだが、何故か委員長について問い詰められていた。

 どうやら、今日のやり取りの最中、美來みくるはずっとこっちを見ていたらしい。


「誰って委員長だよ」


「名前は?」


早苗雪美さなえゆきみ。まぁ、俺は委員長って呼んでるけどな。てか、いつまでその近所のお姉ちゃん設定続けてるんだよ。学校では誤魔化す為に言ったけど、家にいる時までやらなくてもいいんだぞ」


 あの時は俺が必死になって考えた言い訳だ。その設定はクラスの中では未だ健在だが、それも時が経つにつれて忘れるだろう。


「わ、私はただ、気になったから聞いただけよ。実聡みさとの心配なんてしてないわ」


「あー、はいはい、そうですか」


「全く酷い言い掛りよ」


 そう言って美來は「フン」とそっぽを向いてしまった。

 俺はふと数日前の事を思い出す。ハマコーと俺が仲良くしてるのを見て必死になって問い詰めてたのはなんだったんだろうか。俺が他の人と仲良くしてるとこを初めて見たから戸惑ったのか。それは幾らなんでも過保護過ぎないか。てか、俺ってそんなに危なっかしいのか。気をつけないとな。


「それでその体育委員なんだけど、私も誘われてるの?」


 俺が色々と考えていると美來みくるは振り返って俺を見つめていた。前のハマコーみたいになるだけだから、結局、本題に切り替えたみたいだ。


「あぁ、正直に言うけど、委員長はお前と仲良くしたいみたいだ」


「私と?」


「あぁ、そうだ。俺は正直、お前が友達と仲良くなるには良いチャンスだと思うんだがな」


「ふーん」


 美來は相変わらず不機嫌で返事も素っ気ない感じだった。


「委員長は良い人だぞ。俺にだって優しいし」


「うん」


「それにみんなからの信頼も厚いしな。だから、学級委員長になってる訳だし」


「……」


「俺はやってみても悪い事は無いと思うぞ」


 俺がそう言うと美來みくるは黙ってしまった。

 正直、猫から人間になった美來みくるにとっては友達を作るというのは凄く厳しいことだと思う。俺自身もまだ美來みくるが人になって慣れていない。こうやって、美來みくると話すのだって最近になってやっと気を許してくれたくらいだ。

 でも、いつまでもそうしては居られないだろう。美來みくると仲良くしたい奴はクラスにも沢山いるだろし、何よりこの人間の世界に慣れていって欲しい。そうなってくると友達作りと言うのは避けては通れないと思う。


「俺は美來みくるには早く、友達を作って欲しいと思ってる。難しいかもしれないけど、それが人の世界に慣れるには一番早いと思うから」


「……」


 相変わらず、美來みくるは黙ったままだった。でも、これは美來みくるにとって大切な事だ。俺はそう思って話すのを辞めなかった。


「多分、その友達になる機会を委員長が分かりやすく伝えてくれてるだと思う。だから、今回は一緒に──────」


「──────やらない」


「なんでだよ。お前にとって良いチャンスだぞ」


 美來みくるは無言で気難しい顔つきで首を振った。


「私は別に友達なんか欲しくない」


「でも、俺は……」


「それは実聡みさとの勝手、そうでしょ。私は別にそんなの頼んでない」


 美來みくるはキッパリとそう言いきった。

 確かに美來みくるに言わせればそう思うかもしれない。けど、作ってみたら変わる事もあるだろう。美來みくるには知って欲しい。人と話す楽しさだったり、人と関わることの楽しさを。そしてそこから生まれる思い出も。


「俺は俺以外とも仲良くして欲しいと思ってる」


「っ……」


 美來みくるは少し驚いたように目を開いてた。

 俺は少し厳しいことを言ってしまったと焦った。けど、言わなければ始まらないと思う。


「うん」


 美來みくるはそう言ってゆっくりと頷いた。俺はそれを見て少し安心した。これで美來みくるも学校でも心配なく過ごして行けると思う。


「そうか、なら……」


「私は別に人の友達が欲しくて人になった訳じゃないの」


 俺はその言葉を聞いて耳を疑った。


「欲しくないって、でも、クラスの人もみんな友達に成りたがってただろ。美來みくるは直ぐに色んな人と仲良く成れると思うんだ」


「いい。私は1人で理解していく。この人の世界も。だから、実聡みさとが何かしなくても良いよ」


「でも……。それじゃあ」


「実聡には感謝してるの。何も分からない私に色々教えてくれた。私はそれで満足してるの。だから、これからは私は自分の力で学んでいきたい」


 そう言って美來みくるは目を瞑る。美來みくるの声は少し震えていたが優しかった。


「だから、私はその体育祭実行委員には入らないわ」


 俺はそう真剣な眼差しで美來みくるに言われて何も言い返す言葉が見つからなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ