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第4話 猫のみるくと泥棒猫1

 とある日の事だった。俺にとっては普段通りの朝でゆっくりとした時間を送る筈だった。

 俺はというと、いつもと同じ様に窓際の席で空を眺めていた。

 今日の空は少し雲がっていて雲行きが怪しかった。春の天気という奴だろうか。確か朝のお天気お姉さんが夕方から急な雨が降り出すとか言ってたな。俺が不穏な天気を感じていると、ふと、人がいる気がした。俺はその気配に気がついて振り向く。


「やぁ、おはよう。中倉なかくらくん」


「おはよう、委員長。どうしたんだ?」


「もう、君にはいつも言ってるのに。私には名前があるんだからしっかりと名前で読んで欲しいよ」


「そう言われてもな。俺の中の委員長の委員長像が崩れない限り無理だ」


「相変わらず、君は……。私を委員長って呼ぶのも君だけだよ……」


 そこに居たのはクラスの委員長の早苗雪美さなえゆきみこと委員長。黒髪のロングで背丈は美來より少し高いくらいで、彼女もかなりの美人だ。委員長と俺は一年生の時、同じクラスで、その時も委員長はクラス委員長になっていた。委員長はとても真面目でみんなから慕われていた。こんな能天気な俺にも唯一優しくしてくれる優しい人だ。


「やっぱり、委員長は凄いな。みんなからの信用と自信が無いと委員長には選ばれないぞ」


「そ、そうかな……。そんな事ないと思うけど……」


 委員長は戸惑いながらも手を振って否定していた。


「少なくとも俺はそう思ってるけどな」


「んっ……、君相手だとやっぱり調子狂うな……」


 委員長は後ろを向くと何か呟いていた。委員長を後ろから見ていると少し耳が赤くて、俺は心配になった。


「ん?どうした?」


「あはは、何でもないよ」


 委員長は笑って振り返ると、「こほん」と咳をして改めて俺と向き合った。その顔にはさっきの焦りは無くてしっかりと真剣な表情に変わっていた。


「そんな君にお願いがあるんだ」


「おう、この最高な席を変わってくれという願い以外なら大体聞きますよ」


「そんな事望んでないんだけど……。それでね、お願いなんだけど」


「おう」


 そう言って委員長は深呼吸をする。何かこの後に重大発言をするのだろうか。委員長は深呼吸を終えると満面の笑みでこう言った。


「一緒に体育祭の実行委員に────────」


「──────断る」


「即答!?」


 俺は聞こえた言葉を塞ぐように答えた。

 委員長は断られると思ってなかったのか凄く戸惑っていた。


「当たり前だ。俺はゆったりまったり暮らすのが性なんだ。そんな俺のポリシーに反した事なんてする訳な──────」


「──────クズ」


「グハッ!!」


 俺は委員長の口から出た言葉にナイフで刺された様な痛みを覚えた。女子の軽蔑発言ほど心に染みる物はない。

 それに委員長は本当に蔑んだ様な目で見ている。まるで部屋の隅にいるゴキブリを見ているような目だ。


「君がそんな事を言うとは思わなかったよ。先生に1人選んで来なさいと言われたから君にしようかと思ったんだけど、それが間違いだったよ」


「委員長……、酷いよ……」


「なんで、私が悪い見たいなの!?元はと言えば君がそんな理由で君が断るのが悪いんだよ!?」


「だって……」


 俺はしょんぼりとした様な目で委員長に訴えたが、委員長には効かなかった。寧ろ、さっきより目力が増している気がする。

 俺は諦めて逃げの一手を打つ事にした。


「じゃあ、委員長。俺の願いを一つだけ叶えてくれるか?」


「まぁ、叶えられる限りなら叶えるよ。変なのはやめてね」


 俺は委員長にどう思われてるんだろうと一瞬頭に不安が過ぎった。けど、俺は気にせず己を突き通すかなかった。後にも引けないしな。


「それじゃあ……」


 俺は深呼吸をした。ここでヘタな願いを言えば、委員長に引かれたり俺の立場が危うくなるかもしれない。なら、俺がするべきお願いは一つだけだ。俺の最適解は。


「飯奢って」


「本当にクズだよ」


「グッホッ!!!」


 俺は見事に撃沈した。委員長は間違ってない。ただ、俺がクズなだけなんだ。クズ。ぐすん。

 一方、委員長はやれやれという風にため息をついていた。


「はぁ、君だからなのに。君じゃなきゃ頼まないのに……」


「俺だから?」


「んーと、そうじゃなくってねっ……!!君だから頼みやすいって言いたかったのっ!!」


「そーなのか」


 俺って結構下っ端に見られれてるのかな?まぁ、猫の美來みくるにすら家で尻に敷かれてる位だから、これが俺の生きる道なのかもしれない。悲しいな。


「まぁ、中倉くん」


「ん?」


「君が言ってた飯を奢れって話だけど、それくらいなら、別にして上げてもいいよ」


 委員長は少し笑って「どうかな」と言って、首を傾げる。


「嘘だろ……、冗談で言ったのに……」


 俺は委員長の純粋さに心を打たれた。それと同時に自分の罪深さをしみじみと感じた。


「じゃあ、奢らないよ?」


「いえいえ、すみませんでした」


 俺は流れる様に謝る。折角の食費が浮く機会だ。逃しはしない。俺、クズだな。


「全く、君はどうしてこんなお願いをするんだ……」


 委員長も流石に俺の態度には呆れ掛けていた。流石に可哀想かなと思って俺もちゃんとした理由を言う事にした。


「えっと、まぁ、最近食費が嵩張かさばって、結構キツキツなんだ……」


「ふーん、どうしてそんなに食費が膨れ上がるのかな?」


 頭の美來みくるとか美來みくるとかが浮かんだが、俺はそれを振り払って誤魔化すことにした。


「最近、猫拾ってさ。ちょっとその子の育てるのに手間かかってて」


「そう言えば、中倉くんって1人暮らしだったよね?」


「あぁ、そうだな」


「へー。なら仕方ないかな。でも、凄いね。私も憧れちゃうな」


「そーか、案外大変なんだぞ。まぁ、委員長には向いてそうかな」


「でしょ、私、料理とか家事全般が好きだから、やってみたいかな」


「なら、今度やってもらおうかしら」


「え、いいの?是非やらせて貰いたいな」


 俺は冗談で言ったのだが、委員長はかなり食い気味にきたので俺は断るにも行かなくなってしまった。

 というか、委員長って冗談を真に受けちゃう人なのかもしれない。真面目な委員長らしいけど。


「まぁ、部屋が汚いから機会が有ればだな。何より女の子を部屋に入れるからな」


 それに美來みくるもいるし、バレたら大変な事になるしな……。


「うんうん、楽しみにしてるよっ!!」


「お、おう」


 俺はやんわり断ったつもりだったけど、これは無理そうな気がするな。


「あ、それともう1つ。中倉なかくらくんに頼みたい事が有るんだけど」


 委員長は思い出した様に人差し指を立てた。


城乃美來しろのみくるさんについてなんだけど」


「お、おう」


 突然、美來みくるの名前が出たので思わず驚いてしまったが、急いで誤魔化した。委員長はそんな俺の様子には気に止めて無かった。


中倉なかくらくんって城乃しろのさんと仲が良いんだよね。だから、城乃しろのさんに伝えておいて欲しいんだけど」


「うん」


城乃しろのさんも体育祭の実行委員に誘っておいて貰えないかな?」


「俺から?」


「だって、仲良いでしょ?違うの?」


「まぁ、そうだけど……。てか、なんで実来みくるを誘うんだ?」


「転校してきたばかりだから、慣れてないだろうし、仲良くなりたいなって思って」


「なるほど、委員長らしいな。だから、俺を誘ったのか」


「まぁ、城乃さんには他にも聞きたい事があるから誘ったんどけどね……」


 委員長は言葉を濁す様に何か呟いていたが俺には聞こえなかった。


「一応、誘ってみるけど多分断ると思うぞ」


「断らないよ。断れないかな」


「なんで分かるんだ?」


「勘かな」


「勘?」


 俺が聞き返すと委員長は首を振った。女の勘と言うやつだろうか。俺は美來みくると住んでいるがまだまだ分からないけど事が沢山有るみたいだ。


「それは聞かない約束だよ。それじゃあ私この後、用事あるから、宜しくね」


「お、おう」


 俺は結局、委員長誤魔化されて頷くしか無かった。


「じゃあねー!!」


「じゃあな」


 委員長はそう言って、俺にウインクすると、忙しそうに教室の外へと出ていった。

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