第1話 猫のみるくと自己紹介
楽しんで読んで貰えると嬉しいです(≧◡≦)
「今日は転校してきた生徒がいるぞー。みんな、ほら、静かにしろー。先生おこっちゃうぞー」
いつもと変わらない朝。担任の坂田も気だるげに注意している。相変わらず、面倒くさがり屋な担任だ。
今日は5月上旬。春だ。高二になり、一高校生としてある程度学校に慣れてきた頃だ。周りを見渡すと近くの席同士で仲良く喋ったり、1人静かに本を読んでいたり。本当に色んな人がこのクラスにはいる。
そして、そんな賑やかな教室に1人の美少女が入ってきた。教室はその子に目を奪われ、それぞれ美少女に注目する。
「誰だよ、あの子可愛すぎだろ」
「決めた、俺あの子彼女にするわ」
「何あの子モデルさん?」
「はいはい、静かにしろー」
色んな声があちこちから聞こえてくるが、直ぐに坂田に止められる。
みんなが驚くのも無理も無い。多分生まれて初めて見たであろう、白色に染った透き通った長い髪に、スラリと伸びた足。同じ制服を来ているのに違う物を纏っているようなオーラがある。
「それじゃあ、自己紹介よろしくな」
「はい、分かりました」
その美少女はその一声でクラス中を黙らせるとその鋭い眼差しでみんなを見渡す。1歩前に出ると、「すぅ」と言って小さく呼吸をした。
「私の名前は城乃美來です。皆さんこれからの学校生活精一杯精進して行きますので、宜しくお願い致します────」
*
「────何が私の名前は城乃美來ですっ?ふざけにゃいでよ!!」
俺の自宅、中倉実聡の部屋にて大声が鳴り響いた。今、俺の目の前で白色の髪が揺れている。細い体に、色白の肌。今朝と違うのそこに猫耳と尻尾が付いている事だ。
「まぁ、しょうが無いだろっ。他に思い付かなかったんだ」
「にゃに!?人の名前決める時ってそんにゃに適当なの!?私の名前何だから持っといい名前付けなさいよっ!!いい加減にしにゃさいよ、実聡っ!!」
俺は飛んでくる拳を避けながら答える。当たったら痛いだけで無く、引っ掻き傷まで付くおまけ付きだ。所謂、猫パンチってやつだ。
「そっちもそっちで失礼じゃないか!?俺は名ずけ親だぞ!!もっと敬え!!」
「何で開き直ってるのよーー!!」
俺は避けようとしてた猫パンチをまともに食らった。
俺は涙目に成りながら、殴ってきた女の子、いやその猫を見る。名前はミルク。俺には全く持って分からないが、2ヶ月前ほどからこの様に、人の姿になってしまっている。原因は何なのか。俺は考えても仕方ないので取り敢えず親に相談した。すると、俺の親は何とミルクの学費も出すから高校に通わせろと言っていた。驚いた。信じちゃうのね。
しかも、俺は今、実家を離れて遠くの高校に来ている。詰まるところ、一人暮らしだ。他に頼ろうにも説明が付かない状況なのでこうして暮らし始めたのだが。
「だ・か・ら、私の名前はミルクなの!!だから学校にもミルクで通いたかったのよ!!」
こうして、口喧嘩を始めていた。猫の時からそうなのだが気が強くて決まった餌しか食べない。だからか、人間になった今でもプライドが高く、多少の事でもこうしてぶつかってしまう。
「そんなの無理があるぞ。今どきミルク何て名前で通ってるなんて虐められで終わりだぞ。ミルクが知らないだけで人間の世界は怖いんだぞ」
「でも、私はこの名前に誇りを持ってるのよ」
「何で、誇りなんか持ってるんだよ。そのミルクって名前は俺が城乃美來くらい適当に付けた名前だぞ。そんな誇り捨てちまえよ」
「だからよ……」
「だから何だ?」
「何にもないっ!!」
俺はミルクにキレられて引き下がるしか無かった。
俺は諦めて夕食の準備に取り掛かり始めた。ミルクは人の姿になってから、人と同じものを食べれるようになった。だから、俺もいちいち猫用に何か買うことは無くなった。けど、食費が2倍になるのでその分のお金をバイトをして賄わなければならないのだが。
「にゃ、何作ってるのよ……?」
さっきの事をまだ引き摺っているのか、不機嫌になりつつも食欲には負けたようだ。
ミルクは俺から答えが聞こえなかったので、「にゃー」と不機嫌に怒っている。ミルクには「にゃー」と言ってしまう口癖がある。学校に通うから直そうと訓練中なのだが、家だとこうして素の猫が出てきてしまう。
「今日はナポリタンだな。お前の好きな」
「にゃ、にゃ、にゃぽりたん!!??」
「そーだ。にゃぽりたんだ」
ミルクはさっきの不機嫌が嘘のように目を輝かせた。でも、直ぐに首を振るとまた不機嫌になった。でも、それと反対にしっぽがピンと立っている。なんだ、嬉しいのか。分かりやすいな。
俺は予め切っていた材料を入れバターで炒めていく。そしてケチャップやその他調味料を素早く入れると弱火で馴染ませていく。そして、茹でおいた置いた麺を素早く湯切りし、ソースと混ぜ合わせた。部屋がそこまで大きくないせいか部屋中がトマトの甘い香りに包まれた。
俺は大皿に手早く盛りつけると飾りのパセリをまぶして、零れたソースを拭き取った。
「私はね、まだ、実聡から謝ってもらってない。だから、実聡に作って貰った物なんて食べないっ……にゃ」
俺が食卓に大皿を置くとミルクはそんな事を言ってきた。やっぱり、プライドが高い気高い猫だな。
「そーか。それは残念だ。頑張って2人分食べるとするか」
「だ、だめにゃー!!」
俺は飛びついてくるミルクをサッと避けると背の低いミルクの取れないところまでナポリタンが盛り付けられた皿を高く上げた。
「あ、危ないな」
「にゃ、にゃんで……」
「ん?どした?」
「何で、私にそんなにゃに冷たくするの……。もしかして、私の事嫌いに……」
俺はそれを見ていると思わず胸が痛くなった。少し意地悪が過ぎたようだ。俺は大皿を食卓に置くと食器棚に行って2人分の小皿を取ってきた。そして、ミルクと面と向かうと、頭の後ろに手を当てながらため息を着いた。
「はぁ……。その何だ。えっと……、悪かったな。俺も悪気があった訳じゃないんだ」
「にゃん……」
「だから、その、何だ……、一緒に飯食おうか、ミルク」
「うん!!」
俺はミルクに小皿を渡すと、早速2人で食べ始めた。
今日はミルクが初めて学校に登校した日。そして、初めての自己紹介をした。ミルクは俺が着けた名前に誇りを持っているみたいだから一応言っておく。ミルクの名前から白のミルク、そしてそれを変えて城乃美來だ。だから、ミルクも城乃美來も俺が着けた名前だ。そんなにしっかりと考えた名前では無いけど、ミルク自身がその名前を気に入っているのを聞いて俺は内心、嬉しかった。
目の前で口いっぱいにナポリタンを頬張ったミルクが見える。学校の姿からは想像出来ないが、俺にとってはいつも通りのミルクだ。この一人暮らしもミルクを拾ってから大きく変わったし、何より賑やかで楽しい。それは猫でも今のミルクでも変わらない。
俺はそう思って目の前にあるナポリタンを頬張った。ミルクの真似して頬張ったせいで1口では飲み込め無かったが、そのナポリタンの味は今まで食べた中で1番美味しくて、俺の中の美味しいナポリタンランキングのトップを更新した。
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